廃棄番号に花の名を
王都の兵器競売で、戦闘用人造人間K―91は「壊れ物」として床に転がされていた。
右腕は剣の形に固定され、首には灰色の所有環。競売人が環を杖で叩くたび、少女の姿をした兵器は傷ついた膝をついた。
「命令を待機します」
声に感情はない。だが、工房主テッサには、伏せられた瞳が競売台の出口を一度だけ見たのが分かった。
貴族たちは笑った。
「修理すれば門番くらいにはなる」
「所有印を書き換えれば従順だ」
テッサは全財産で落札した。欲しかったのは兵器ではない。所有環に埋め込まれた、旧軍の命令核だった。
工房へ戻ると、K―91は壁際に立ったまま言った。
「新所有者の登録を」
「しない」
「未登録状態では、私は廃棄対象です」
「だから、その仕組みを廃棄する」
テッサは環の継ぎ目に細い解呪鑿を差し込んだ。所有者欄へ自分の血を流せば、作業は一瞬で済む。だが彼女は空欄のまま、命令核だけを狙った。
警告音が鳴る。
『所有権消失時、素体を停止します』
「脅し文句まで安っぽい」
金槌を振り下ろす。二度目で環に亀裂が走り、三度目で灰色の輪が床へ落ちた。
K―91の全身が硬直した。胸の炉心が一度消え、次の瞬間、誰の許可もなく再点火する。
「命令を」
「ない。扉も開いてる」
少女は長く扉を見つめた。そして剣の腕を抱え、夕暮れの街へ歩いていった。命令のない道では、一歩ごとに自分で次の一歩を選ばなければならない。足取りはぎこちなかったが、止まれと罰する痛みはもう来なかった。
テッサは追わなかった。戻るよう命じられない自由は、帰る場所を決める自由でもある。工房の灯だけは消さず、彼女が選べる目印として窓辺に残した。
夜、工房の戸が三度鳴った。
少女が立っていた。右腕の剣は自分で外され、布に包まれている。
「修理依頼です。代金は働いて返します」
「名前は?」
少女は道端で摘んだ紫の花を見た。
「アスター。私が、今、選びました」
テッサが作業台を空けると、アスターは包んだ剣をそこへ置き、自分の足で彼女の隣に立った。