影を斬れば王は死ぬ
「ソロ? 不死王は四班合同でも再生したぞ」
「売名だろ。棺を壊す係だけで八人必要」
「逃げ配信になるに一万」
コメントは三つだけ拾い、天城シオンは《骸王墓所》の最深部へ入った。
玉座の前で、不死王ヴァルグが立ち上がる。胸を貫けば傷が閉じ、首を落とせば床の棺から新しい肉体が起きる。攻略隊が百二十七回敗れた理由は、視聴者のほうが詳しかった。
シオンはかつて、その攻略隊で棺の数を数えるだけの記録係だった。剣を振らない臆病者と追い出された夜、彼だけが、王が倒れるたび影の枝が一本ずつ光るのを見ていた。今日の配信は復讐ではない。見落とされた一行を、記録に戻すためのものだった。腰の剣も、支給品を返す日に買い取った刃こぼれ品だ。王を斬るためではなく、記録係だった自分の観察が正しかったと証明するために持ってきた。
シオンは剣を抜かなかった。
王の背後では、棺の蓋が十六枚、呼吸するように上下している。ヴァルグが嘲るように両腕を広げた。黒い炎が王冠から噴き、配信画面の温度警告が赤く染まる。
「攻撃しないの?」
「いや待て、カメラを床に向けた」
「王の影だけ、棺全部につながってる……?」
シオンは一歩だけ横へ動いた。
火柱が空振りし、王の影が十六の棺へ伸びきった瞬間、彼は鞘に収めたままの剣を振り下ろした。
斬ったのは肉体ではない。床を這う、細長い影だった。
乾いた音が一つした。
王冠の炎が消え、十六枚の棺が同時に閉じる。ヴァルグの胸には傷一つない。それでも巨体は糸の切れた外套のように崩れ、玉座の前で灰になった。
「影が復活経路だったのか!」
「斬影判定、普通の武器じゃ出ないぞ」
「今ログ解析班が確認した。納刀中の一撃だけ物体じゃなく“所属関係”を切るスキルだ」
「つまり十六個の蘇生核を、一回で全部切断……」
シオンはようやく剣を抜き、灰の山に突き立てた。ドロップしたのは王冠ではなく、黒い小さな鍵だった。
配信画面の右上で、長く灰色だった表示が金色に変わる。
【ダンジョン庁公式記録:不死王ヴァルグ/世界初・単独討伐 天城シオン】