徴税台帳に咲く紫の紋

洪水で橋を失ったフェルナ村の広場に、領主オルドラス・ベグン男爵は徴税机を置いた。

「復旧協力税は一戸につき銀貨十二枚だ。今日払えぬ家は畑を差し出せ」

昨年まで二枚だった。家を流された者まで列に並ばされ、兵士が空の財布を逆さにする。村役場の記録係リゼル・フェインが台帳を抱えて進み出ると、男爵は鼻で笑った。

「たかが書記が口を挟むな。数字を書くだけの手だろう」

「では、正式な税目として記録いたします。金額と使途を、こちらへ」

差し出したのは領主用の徴税台帳だった。オルドラスは見せつけるように羽根筆を奪い、〈橋梁復旧協力税、銀貨十二枚。徴収分の半額は男爵家警備費へ転用〉と自ら書いた。

「王都の役人が来ても、この署名を見せれば黙る。領内では私の言葉が法だ」

さらに印章まで押す。村人たちの前で逆らえないことを証明したつもりなのだろう。

リゼルは静かに台帳を閉じた。

「ありがとうございます。これで一字も聞き違えません」

「何を――」

表紙の王冠模様が紫に光った。災害指定地へ送られた台帳は、記入と同時に王都財務院へ複写される。違法な税率、私的転用、署名者の魔力紋まで、すべてが監査机に届く仕組みだった。オルドラスは古い台帳だと思い込み、注意書きを読むことすらしなかった。

広場へ三台の黒い馬車が入ってきた。降りた財務監察官が、王都で刷り上がったばかりの紫紋の写しを掲げる。

「男爵、これは偽造だ! その女が勝手に――」

「筆跡だけなら争えましょう。しかし魔力紋と、記入中の音声も保存されています」

台帳から、先ほどの声がそのまま響いた。〈半額は男爵家警備費へ〉。兵士たちが顔を見合わせ、村人の列から一斉にため息が漏れた。

リゼルは空になった徴税箱の蓋を開け、監察官へ渡した。底には今日集めた銀貨と、差し押さえ予定の農地一覧があった。一覧の承認欄にも、同じ印章が並んでいる。

監察官は王冠付きの封書を開いた。

「オルドラス・ベグン。災害救助妨害、違法徴税および公金横領未遂の容疑により、王立財務院は貴殿の拘束を命じる」