必中科首席の矢が迷う
王立射術院の卒業査定で、クォナリスは白線の内側に立たされた。
彼女の回避実技は三年間ずっと零点だった。矢が飛んでも身をひねらず、足をずらさず、まばたきさえ遅い。教官ギャルドンは、それを臆病ですらない無能と呼んだ。
「動けない標的なら、必中科首席の面目も立つ」
観覧席の前で、彼は銀の長弓を引いた。クォナリスは両手を背中で組み、白線の中央から動かない。
一矢目は眉間へ向かった。
弦音の直後、矢は彼女の左耳すれすれを通り、背後の採点板へ刺さった。歓声を上げかけた生徒たちは、板に刻まれた穴を見て黙る。クォナリスの髪は一本も揺れていなかった。
「風だ」
ギャルドンは言い切ったが、窓は閉じていた。しかも矢羽は、標的の目前で自ら折れ曲がった痕跡を残している。
彼は面子を守るため、卒業式用の秘技《千条天蓋》を解放した。一本の矢が空中で千本へ分かれ、上も横も背後も塞ぐ。逃げ道を消すための奥義だ。
「これなら、避ける場所などない!」
矢の雨が白線を呑み、床石が砕け、煙が講堂の天井まで膨れた。
煙が晴れる。
クォナリスは両手を背中で組んだ同じ姿勢だった。白線も靴先も無傷で、千本の矢だけが彼女の輪郭を避けるように床へ突き立っている。
異常に気づいたギャルドンの指が、弦から離れなかった。彼女は避けたのではない。一本目も千本目も、命中する直前に矢のほうが進路を譲っていた。
老院長だけが、講堂の壁に掛かる創立者の肖像とクォナリスを見比べて立ち上がった。三百年前、戦争を終わらせた『矢の届かぬ守人』。同じ白い髪、同じ静かな目だった。彼女は臆病で動かなかったのではない。学院が生まれる前から、動く必要のある攻撃を一度も受けていなかった。生徒たちは零点の採点表を見直した。記録されていたのは回避の失敗ではなく、三年間、一度も回避動作を必要としなかったという事実だった。
「私の技能名、読み違えています」
クォナリスは静かに告げた。
「〈絶対回避〉は、私が攻撃を避ける技能ではありません。攻撃が、私を避ける技能です」
ギャルドンが意地で三本目をつがえようとした瞬間、銀の長弓が中央から砕けた。