折れた剣ほどよく斬れる

《刃に合成エフェクト載せてるだけだろ》

《訓練用の鉄剣で黒鋼竜? 運営と組んだ茶番》

《また“無名最強”の設定配信か》

「疑うのは自由。だから今日は、借り物でやる」

過去の討伐では、斬撃の瞬間が速すぎて刃が映らなかった。それが加工疑惑の始まりだった。要は反論動画を作らず、管理局に公開検証だけを申請した。

陣内要は、迷宮管理局の受付で受け取った番号札つきの訓練剣を掲げた。刃は欠け、柄には前の使用者の汗染みまで残っている。封鎖された第七層では、黒鋼竜が通路を塞いでいた。

三日前、その鱗を傷つけられなかった討伐隊がまだ治療中だ。観戦席の空気には、期待よりも「化けの皮が剥がれる瞬間」を待つ熱が濃かった。

要は剣を抜かなかった。

鞘ごと腰に当て、迫る竜へ半歩だけ踏み込む。爪が画面を覆う直前、親指で鍔を押した。

澄んだ音が一度。

剣は鞘から三寸しか出ていない。それでも黒鋼竜の突進は止まり、背後の壁に細い線が走った。竜の巨体も、その線に沿って静かに左右へ分かれた。遅れて、欠けた訓練剣の先端だけが床へ落ちる。

《え》

《今、抜いてないよな?》

《待て、壁まで切断面が同じ角度だ》

《管理局の貸出票、画面右上に出てる。持ち込み不可の個体だぞ》

要は折れた刃を鞘へ戻した。観戦席では、疑惑検証用に持ち込まれた予備の高速度カメラだけが、遅れて停止音を鳴らす。

「本物の剣じゃなくても、斬る場所が本物なら足りる」

コメントの流れが、嘲笑から測定値へ変わる。現地に置かれた材質検査端末が、竜の甲殻硬度と壁の厚みを自動送信したらしい。

《硬度九八〇、訓練剣の耐久上限は一二》

《不正な魔力付与なし。監査員の署名も来た》

《偽物なのは剣のほうで、強さは本人だった》

《さっき疑って悪かった。これ世界記録だろ》

配信画面の隅で、管理局公式アカウントが入室した。

【緊急検証完了:映像加工・装備改造・協力個体なし】

その一文の下で、配信タイトルが自動更新される。

『訓練剣で挑戦』から――『世界初・黒鋼竜を三寸抜きで討伐』へ。