攻撃力ゼロの戴冠
赫王ヴァルドの大剣が床を割り、浅葱野カナメは王冠へ木剣を滑らせた。
《王冠戦》
王冠への「無傷命中」を三回成立させた者を勝者とする。
ダメージが発生した場合、命中回数はゼロへ戻る。
《初心者用練習剣》
攻撃力:0
王都で最も弱い武器。
王冠の上に《2/3》が灯る。攻略隊から罵声が飛んだ。
「遊んでないで本体を削れ!」
伝説剣がヴァルドの肩を裂く。大ダメージの歓声と同時に、王冠の数字は《0/3》へ戻った。三年間、誰も赫王を倒せなかった理由を、カナメはようやく理解した。これは討伐戦ではない。だが全員がHPバーだけを見ていた。
ヴァルドが反撃し、伝説剣の持ち主を壁へ叩きつける。カナメは足元へ潜り込んだ。木剣は鎧へ当たっても乾いた音を立てるだけだ。敵視すら上がらない。
一回目。王冠の縁。
二回目。額を狙った大斧が割り込み、数字がまた消える。
「攻撃するな!」と叫んでも、あと少しで倒せると信じる者は止まらない。カナメはヴァルドへ背を向け、味方の武器を木剣で受けた。攻撃力ゼロの刃は誰も傷つけない。それでも軌道を逸らすことはできる。
「なぜ我を守る」
赫王が初めて定型文以外を口にした。
「あなたを殺す試験じゃないからだ」
カナメは王座へ駆け上がり、王冠を狙う。ヴァルドは大剣を振り下ろさず、わずかに頭を低くした。
三度目の木の音。
赫王のHPは満タンのまま、戦場の赤い枠が消えた。王冠がヴァルドの頭から離れ、カナメの前へ浮かぶ。
《レイド「赫王討伐」失敗》
《王冠戦「無傷命中」三回達成》
ヴァルドの大剣が床へ置かれると、攻略隊の攻撃指定も一つずつ消えた。最初に武器を下げたのは、百回以上この戦いへ参加した老剣士だった。
「倒せなかったんじゃない。俺たちは毎回、条件を自分で壊していたのか」
王冠の内側には歴代挑戦者の名ではなく、《殺さずに近づいた者なし》と刻まれていた。カナメが触れると、その一文だけが初めて書き換わった。
《新王を選定します――最も強い者ではなく、王を殺さず冠へ届いた者》