既読は返事ではない
都和がファミリーレストランに着くと、母は水より先にスマートフォンを差し出した。画面には家族グループが開かれている。
母 明日の夕方、荷物を受け取って
母 見た?
母 既読ついてるけど
「仕事中だったの」
「見る時間があるなら、一言くらい返せるでしょう」
都和は、いつもの窓際の席に座っていた。子どものころから、母が奥、父が向かい、都和は店員を呼ぶボタンに一番近い。注文をまとめるのも、水を頼むのも、会計で立つのも都和だった。
父がメニューを閉じた。「荷物って、うちに届く米だろ。ついででいいじゃないか」
「ついでかどうかは、私が決めることだよ」
母の眉が上がる。その動きまで、グループに送られる赤い感嘆符に似ていた。
都和は自分の画面を開いた。未返信のメッセージは十一件。どれも質問ではなく、決まったことの通知だった。返事がないと、母は同じ文面を個別にも送り、最後に電話をかけてきた。
「これから、読んでもすぐには返さない」
「家族の連絡なのに?」
「家族の連絡だから、できることとできないことを分けたい。急ぎなら電話を一回。出なければ、今は無理ってこと」
母は「冷たい」と言い、父はドリンクバーへ逃げた。都和は反論を重ねなかった。家族グループの通知を一週間停止にし、固定表示も外す。退出はしない。だが、画面の一番上に家族が居座る形も終わりにする。
店員が来たので、都和は自分の注文だけを告げた。母が「私はいつもの」と差し込む。
「お母さんの分は、お母さんが言って」
短い沈黙のあと、母はメニューを見て、初めて料理名を口にした。
食事の途中、鞄の中で一度だけスマートフォンが震えた。都和は取り出さなかった。母は都和の分までデザート用のスプーンを取ろうとして、途中で手を止めた。都和は卓上のケースから自分で一本抜く。小さな動作なのに、誰かの世話を断ったときのような緊張が走り、やがて消えた。既読にならない画面の向こうにも、家族はいる。返事を急がない席に座ったまま、彼女は追加のプリンを自分で注文した。