曲がった星を残す

水城絢音は、星の位置を三ミリずつ直していた。

広告制作会社で働く二十七歳。休日だけ手伝っている市立プラネタリウムの工作会でも、子どもたちが貼った星形シールの傾きが気になった。銀河の台紙を壁へ飾る前に、剥がしては貼り直す。星座の知識とは関係がない。ただ、曲がっているものをそのまま人目に出すのが怖かった。

仕事でも同じだった。翌朝までに共有するはずの新企画は、下書きフォルダに五日間眠っている。文字の間隔、写真の仮置き、説明しきれない余白。上司は「粗くていいから見せて」と言ったが、粗いものに自分の名前がつくことを、絢音は失敗としか思えなかった。

「それ、ぼくの星」

背後に、紙の宇宙服を着た男の子が立っていた。名札には天馬、六歳。絢音が貼り直した星を指して、頬を膨らませている。

「少し斜めだったから、まっすぐにしたの」

「曲がった星は落ちるの?」

「落ちないけど……きれいに見えるでしょう」

天馬はしばらく台紙を見上げ、それからシールを一枚、絢音の手のひらへ置いた。

「じゃあ、目をつぶって貼って。電気が消えるまで直しちゃだめ」

工作会の終了まで、あと十分だった。絢音は笑って断ろうとしたが、天馬はもう両手で彼女の目を覆っている。仕方なく腕を伸ばし、指先で台紙を探った。貼りついた星は、端が少し浮き、ほかの星から妙に離れていた。

天馬は満足そうに、その星へ「迷子」と鉛筆で書いた。説明はしなかった。館内が暗くなると、蓄光シールは不揃いなまま光った。離れた一つも、ちゃんと星だった。絢音は、その不自然な間隔にこそ最初に目を引かれた自分を、少し意外に思った。

工作会の片づけで壁の銀河を外すと、ほかにも逆さの星や、二枚重なった月が見つかった。担当職員は直さず、子どもの名前を書いた袋へそのまま入れた。絢音だけが、整っていないものを作品と呼ぶのに時間がかかっていた。

帰宅後、絢音は企画書を開いた。整列から外れた仮写真が一枚ある。いつもなら夜中まで位置を直すところだった。

机の端には、天馬が余らせた星形シールが貼りついていた。絢音はファイル名を「完成版」から「初稿」に変え、本文へ「迷っている箇所があります」と一行だけ添えた。

そして、少し曲がった星を残したまま、共有ボタンを押した。