更新しない夜

柚葉は、眠る前に必ず同級生たちの近況を一周した。

転職先の社員証。海外のホテル。資格試験の合格通知。画面を送る親指は、誰かの幸福を祝うためではなく、自分に足りないものを数えるために動いていた。見終えると、枕元の小さなノートに「今日も遅れている」と書く。それが一日の終わりの儀式だった。

その夜、残業帰りの電車で、大学時代の友人が新しい部署の名札を載せていた。柚葉は反射的に拡大し、会社名を検索し、採用ページまで開いた。年収例の数字が胸の奥に冷たい針を立てる。

家に着いてもコートを脱げず、玄関に座ったまま次の投稿へ進んだ。旅行、婚約、朝活、手作りの夕食。どれも自分の部屋より明るく見えた。

通知が一件増えた。

〈沙羅さんが新しいストーリーズを追加しました〉

柚葉の指が止まった。冷蔵庫では、朝に作ったスープが鍋の中で待っている。自分の生活にも、まだ温めれば湯気の立つものがある。それを思ったのは、励まされたからではない。ただ、空腹で胃が小さく鳴ったからだった。

以前は、見なければ置いていかれると思っていた。友人の転職先を知らず、旅行先を知らず、誰が誰と会ったかを知らない夜は、自分だけ廊下に立たされているようだった。だから翌朝早い日も画面を閉じず、眠気まで意志の弱さとして数えた。けれど、知るほど近づけたものは一つもなかった。

柚葉は通知を開かず、設定画面へ移った。友人たちの名前を消すのではなく、アプリからの通知だけを切る。最後の確認ボタンは、拍子抜けするほど薄い灰色だった。

ノートを開く。「今日も遅れている」と書きかけ、ペン先を止める。黒い線を一本引き、その下に「スープを温めた」とだけ記した。上手に過ごせた日とは思えなかったが、採点しない記録なら、それで十分だった。

鍋を火にかけるあいだ、スマートフォンは伏せたままだった。誰かの夜が更新されても、柚葉の台所には届かなかった。沸き始めたスープの小さな音だけが、今日の続きとして残った。