最後のブレザー当番

五月最後の終礼後、教室の後ろには一着だけブレザーが残っていた。

美化委員の私は、持ち主の机まで運んだ。窓際で荷物をまとめていた本人は、半袖のシャツ姿で振り返った。

「もう持って帰らなくていいかな」

来週から衣替え。けれど、その子は夏休み前に転校する。次にこのブレザーを着る秋、この教室にはいない。

「家には持って帰りなよ」

「向こうの学校、制服違うし」

軽く言って、ブレザーを受け取った。ポケットから、文化祭の半券、折れたシャープペンの芯、冬に配られた座席表が出てきた。私たちは机の上へ一つずつ並べた。

「ゴミばっかり」

「座席表はゴミじゃない」

私は赤いペンで、隣り合っていた二人の席を丸で囲んだ。あの席で消しゴムを貸し、英単語を教え、授業中に笑いをこらえた。

その子はブレザーを羽織った。外は二十八度で、すぐに額へ汗が浮かんだ。

「最後に写真撮ろう」

「暑そうな転校生の記録?」

「冬までここにいた証拠」

廊下の鏡の前に並ぶ。私はもう夏服、その子だけが紺色のブレザー。季節が一人分ずれて見えた。

セルフタイマーが点滅する間、その子が私の肩へ腕を回した。

「秋になったら送って。そっちの冬服の写真」

「そっちも」

「制服、似合わなかったら?」

「笑う」

シャッターが切れた。

翌週、教室は白いシャツばかりになった。その子の机の横だけ、ブレザーの影が残っているように見えた。

転校の日、あの座席表を半分に切って渡した。丸で囲んだ席が、一つずつ別の紙に分かれた。

秋、届いた写真には、知らない制服を着たその子がいた。少し髪が伸び、前より背筋が伸びていた。

裏には、こう書いてあった。

『似合うかは知らない。でも、ちゃんと次の季節にいる』

私はしまっていたブレザーを出し、同じ場所で写真を撮った。空いた肩のぶんだけ、少し大人びて見えた。

冬の教室でその写真を見返すと、二人とも暑さに顔をしかめている。それでも、別々の制服へ着替える前の私たちは、同じ季節の中で確かに笑っていた。