本棚越しのまばたき

図書室のいちばん奥、外国文学の棚だけが、放課後になると夕日を細く通した。

僕が上段の本へ手を伸ばすと、向こう側にも指先が見えた。棚は背板のない両面式で、同じ本を反対側から誰かがつかんでいる。

力を抜くと、相手も抜いた。もう一度引くと、また同時に引かれた。

背表紙の隙間からのぞくと、同じクラスの窓際の子と目が合った。授業中はほとんど話さない。出席を取るときだけ聞く声と、ノートをめくる横顔くらいしか知らなかった。

「どうぞ」

小声で言うと、向こうも「どうぞ」と言った。

結局、どちらも手を離せず、本は棚の真ん中に残った。

題名は『遠い町の灯台』。読書感想文の指定図書でも、話題の新刊でもない。なぜ選んだのか聞くには、図書室は静かすぎた。

彼女は棚の向こうから、口の形だけで「先に」と言った。

僕は首を振った。

彼女が少し笑った。その笑いが思ったより子どもっぽくて、僕もつられた。司書の先生がこちらを見たので、二人とも慌てて口を閉じた。

その日は、本を借りなかった。

翌日、同じ時刻に行くと、『遠い町の灯台』は棚から消えていた。貸出票を見ても、誰が借りたかは分からない。少し残念に思いながら閲覧席へ行くと、いつもの窓際に彼女が座っていた。

机の中央に、その本が置かれていた。

彼女はしおりを挟んだところまで読み、僕の側へ本を押した。ノートの切れ端に、『ここまで。次、どうぞ』と書いてある。

一冊を同時には借りられない。けれど、図書室の中なら二人で読める。

僕は彼女の向かいに座り、続きを開いた。彼女は別の本を読むふりをしながら、ときどきこちらを見た。僕もページをめくるたび、棚越しではなく正面から目を上げた。

物語の灯台が初めて光る場面で、彼女が声を出さずに「きれい」と言った。

僕は同じページを指でたたいた。

それから一週間、僕らは一冊の本を交代で読んだ。会話はほとんどなかった。読んだ場所にしおりを挟み、気に入った一文の横へ、鉛筆ではなく小さな付箋を貼った。

読み終えた日、彼女が貸出カウンターで言った。

「次は、別々に借りようか」

少し寂しく聞こえた。

僕は棚から同じ作者の本を二冊抜いた。

「別々の本を、同じ席で」

彼女は一度まばたきをして、うなずいた。

本棚越しでしか合わなかった目が、その日から毎日、同じ机の上で合うようになった。