机の下の死角

期末試験の終了五分前、監督教師が真壁谷敦紀の机を持ち上げた。

裏側に、数式を書いた紙がテープで貼られていた。

「立ちなさい」

教室の視線が一斉に刺さる。数学で学年一位の梶ヶ谷崇文が、ため息まじりに言った。

「先生、さっき真壁谷くん、机の下を何度も見てました」

敦紀は否定した。だが紙には今回の難問と同じ式が並んでいた。監督教師は答案を取り上げ、放課後の指導室へ来るよう命じた。

指導室には担任、学年主任、梶ヶ谷とその母親までいた。梶ヶ谷は沈痛そうな顔で、「友達として止められなかった」と語った。母親は、息子が努力で一位を守ってきたのに不正な生徒と同列にされては困る、と言った。

敦紀は鞄から一枚の紙を出した。

「処分の前に、これを確認してください」

それは前週、備品の盗難対策で教室に設置された監視カメラの映像開示請求書だった。生徒会の会計担当だった敦紀は、設置作業に立ち会っていた。カメラは黒板側だけでなく、教室後方の広角機も机の列を映している。

学年主任が映像を再生した。

試験開始二十分前。誰もいない教室へ梶ヶ谷が戻ってくる。敦紀の机を横倒しにし、紙を貼り、念入りに脚の位置まで戻していた。さらに試験中、敦紀が下を見たと証言した時刻には、敦紀は答案を見たまま一度も顔を伏せていない。下を覗いていたのは梶ヶ谷のほうだった。

「違う、これは練習問題を返そうとして……」

梶ヶ谷が立ち上がった瞬間、映像の音声が流れた。

『これであいつの推薦、消える』

一人言まで鮮明だった。

担任が梶ヶ谷の答案を確認する。机に貼られた紙には、まだ授業で扱っていない解法がある。その式と梶ヶ谷の解答は、誤った符号まで一致していた。

校長が呼ばれ、推薦審査を即時停止すると告げた。敦紀の答案は別室で採点し、疑いは完全に撤回するという。

学年主任が処分記録の氏名欄を二重線で消し、その下へ梶ヶ谷崇文と書き直した。

赤い印が押された瞬間、机の下に隠されたはずの真実は、教室の誰より高い場所から敦紀の無実を証明した。