杉屑の宅配箱

吹雪が鴉岳荘を閉じ込めた朝、玄関の外に宅配箱が置かれていた。県道は午前六時に封鎖され、その後に積もった雪には獣の足跡すらない。ところが送り状の受付時刻は八時十二分。箱の中には、宿主が昨夜まで金庫に隠していた裏帳簿が入っていた。

荘内にいたのは三人だけだった。管理人の牧原、料理人の門倉、写真家の矢代。牧原は「除雪車さえ来ていない」と言い、門倉は朝食の仕込み、矢代は二階で吹雪を撮影していたという。誰も玄関を開ければ鳴る真鍮鈴を聞いていなかった。庇から落ちる雪は途切れず、箱の周囲だけを後から掃いた形跡もない。窓から投げたなら、柔らかな雪へ深く沈むはずだった。

私が拾った手掛かりは三つだった。箱の底には、雪ではなく新しい杉の削り屑が付いていた。向かい合う二つの角だけが、厨房から玄関脇へ通じる古い薪投入口の内幅と同じ二十二センチ間隔で潰れていた。そして牧原の作業用手袋には、濡れた段ボールの茶色い繊維が刺さっていた。

門倉は、裏帳簿を見て青ざめた。仕入れ代を水増しした記録があるらしい。矢代も宿主に弱みを握られ、写真展を中止させられたと認めた。牧原だけが「外から誰かが運んだに決まっている」と繰り返した。だが、外から来た者がいないことこそ、この箱の価値だった。宿主は帳簿の所在を知る者が荘内にいるとは思っていない。だからこそ、山の外に控える共犯者の存在を信じれば、現金を払って口を封じようとする。宿主に、帳簿を持ち出せる仲間が山の外にいると思わせるためである。

私は玄関脇の薪箱を開けた。古い投入口の出口は庇の下、箱が見つかった場所のすぐ上にある。

「配達されたのではありません。牧原さんが帳簿を箱へ入れ、厨房側から薪の投入口へ押し込んだ。角の潰れは狭い鉄枠を通った跡、底の杉屑は通路の証明です。最後に出口で箱を受け止めたため、手袋へ紙繊維が付いた。吹雪と無足跡を利用し、外部の共犯者を装って宿主を脅すつもりだったのでしょう。玄関鈴が鳴らなかった理由まで、最初から箱の底に書かれていました。あなたは箱を届けた人物ではなく、宿の内側から『届いたように見せた』人物です」