枕元の順番札
消灯十分前、五人分の枕の中央に、旅館のメモ用紙を細く裂いた札が置かれた。
「引いた順に話す。名前は禁止。嘘も禁止」
叶絵が決めた。恋バナを始めるときだけ、彼女は学級委員より厳しい。
一番の札を引いた子は、「好きな人は同じクラス」と言った。二番は「笑うと片方だけえくぼができる」。三番は「今日、鹿にしおりを食べられた人」。そこまで聞いて、全員が同じ男子を思い浮かべ、布団を叩いて笑った。
私は四番だった。
昼間の班別行動で、叶絵とは何度も二人きりになった。地図を読む係と時間を見る係で、立ち止まるたび肩が触れた。けれど制服ではない彼女は、薄紫のカーディガンも、耳元の小さな飾りも知らないものばかりで、私は一日中、いつもの呼び方すら少しためらっていた。叶絵も何度かこちらを見ては、何も言わずに歩幅だけ合わせた。
「いないよ」
反射的にそう言うと、叶絵が枕元の時計を見た。
「残り二分。嘘は禁止って言った」
廊下の向こうから、先生のスリッパが一定の間隔で近づいてくる。私は札を指で折った。言えば、明日の班行動も、帰りのバスも、教室へ戻ってからの毎日も、少し形が変わる気がした。
「朝、誰より早くカーテンを開ける人」
やっと出した声は、自分にしか聞こえないほど小さかった。
四人が黙った。
それは毎朝、私がしていることだった。眠気に弱い叶絵を起こすため、教室でも合宿でも、窓際のカーテンを開けるのはいつも私だった。
叶絵は驚かなかった。代わりに、自分の札を裏返した。
「私も。寝たふりしてると、起こす声が近いから」
襖が三回鳴った。
私たちは一斉に布団へ潜った。先生が戸を開け、懐中電灯の丸い光が天井を滑る。誰も息をしなかったのに、私の心臓だけが点呼に返事をしていた。
戸が閉まり、足音が遠ざかる。
暗闇の中で、叶絵の手が布団の境目を越えた。掌に押し込まれたのは、折り目のついた五番の札だった。
表には、丸い字でこう書いてあった。
――続きは、明日の朝。