査定される側はギルドでした

杉浦朔人が冒険者ギルドへ入ると、受付前の床には赤、青、金の三本線が引かれていた。

赤は平民、青は魔術師、金は貴族。召喚されて三日、言葉だけを頭へ流し込まれた朔人は、宿代を払うためにここへ来た。どこに並ぶべきかも教えられないまま鑑定板へ手を置かされた。黒い石板に浮かんだのは《筋力12》《敏捷9》《魔力0》。最後の技能欄は空白だった。

「魔力ゼロ。荷車の車輪でも登録したほうが、まだ稼ぎになるな」

試験官が笑い、後ろの受験者たちもつられて息を漏らした。

朔人の視界には、石板が読めない一行が浮かんでいる。

《逆査定》

評価するもの一つに、評価される側の資格を一度だけ問わせる。

元の世界で朔人は、契約社員の査定表を作る仕事をしていた。自分を見たこともない上司が、数字三つで人間を切る。だから知っている。基準を握る者ほど、自分が基準を満たすかは問われない。

試験官は不合格印へ手を伸ばした。朔人の後ろでは、赤線に並ぶ少年が、先ほど治療費を前払いできないという理由だけで追い返されていた。

「登録料は返さん。次」

「その前に、この鑑定板にも試験を受けてもらいます」

朔人は《逆査定》を使った。

黒い板が白く反転した。数字は消え、代わりに巨大な文字が受付の壁いっぱいへ投影される。

《冒険者ギルド中央支部を査定》

《公平性・18》

《救命実績・7》

《依頼料横領・検出》

《新人死亡率・許容値の十一倍》

《総合等級・失格》

笑いが止まった。

さらに最下段へ、判定を実行した者の資格が表示された。

《監査権限・測定不能》

《創設者規約に基づき、全支部への是正命令権を付与》

壁際に飾られていた初代ギルド長の銀章が、百年ぶりに光を放つ。支部長の胸についた金章は逆に黒く曇り、音を立てて床へ落ちた。

二階の執務室から、白髪の総本部監察官が駆け下りてきた。彼は表示と朔人を交互に見たあと、杖を脇へ置き、姿勢を正した。

赤、青、金。三本の列に並んでいた全員が道を開ける。

さっきまで荷車以下と笑っていた試験官だけが、失格と輝く板の前で立ち尽くしていた。