植木鉢の下の鍵
屋上へ続く扉には、赤い字で「立入禁止」と貼られていた。そのくせ鍵は、階段脇の植木鉢の下にあった。
それを教えたのは、いつも授業中に寝ている後ろの席のやつだった。
「秘密にしろよ」
昼休み、僕らは購買の焼きそばパンを持って屋上へ出た。風が強く、袋が鳴った。校庭では体育の授業が始まり、笛の音がずいぶん遠く聞こえた。
屋上の隅には、空のプランターが六つ並んでいた。土だけが乾いている。そいつはポケットから小さな水筒を出し、土へ少しずつ水を落とした。
「何も植わってないだろ」
「まだ見えないだけ」
春休み、用務員さんがここに朝顔の種をまいたらしい。けれど新学期になる前に入院し、そのまま学校へ戻れなくなった。鍵の場所も、水やりのことも、たまたま居合わせたそいつに託したのだという。
授業をサボる理由にしては立派すぎて、僕は笑えなかった。
「先生に言えばいいのに」
「言ったら鍵を替えられる」
なるほど、と僕も水筒を受け取った。土はすぐに黒くなり、風の中で湿った匂いが立った。
それから僕らは週に一度、昼休みを半分だけサボった。屋上へ来るたび、そいつは「まだ見えない」と言った。僕は「もう枯れてるんじゃないか」と言った。
六月のある日、プランターの端に小さな双葉が出ていた。
「見えたな」
僕が言うと、そいつは得意げに笑うかと思った。けれど、しゃがみ込んだまま顔を伏せた。風が制服の背中を膨らませていた。
「用務員さん、昨日亡くなったって」
双葉は、そんなことを知らない形で揺れていた。
僕は何も言えず、焼きそばパンの袋を丸めた。するとそいつが、いつもの調子で言った。
「秘密、増えたな」
その日から鍵は、植木鉢の下ではなく僕のポケットに入るようになった。
夏、朝顔はフェンスいっぱいに咲いた。先生たちは誰が育てたのか知らない。全校集会で校長が「自然の力は素晴らしい」と褒めたとき、隣のそいつと目が合った。
僕らは拍手をしながら、ほんの少しだけ授業をサボった人の顔をした。