水晶は二度目に笑う

「触れるだけでいい。魔力のない者でも、水晶は曇る」

 王立魔法学院の実技室で、試験官ヴァルガが前と同じ言葉を口にした。

 机の上には、前と同じ黒い手袋。受験生の安全用だと説明され、前の人生のセイルは疑いもせず右手にはめた。水晶は一筋も光らなかった。会場中に笑われ、不合格の札を首から下げられた。

 けれど本当は、手袋の縫い目に魔力を吸う封蝋が仕込まれていた。半年後、封蝋を売った上級生が酒場で自慢するのを、学院の門番にまで落ちぶれたセイルは聞いたのだ。

 そして今、十六歳の朝へ戻っている。

「どうした。怖いのか?」

 ヴァルガが黒い手袋を指で押した。前と同じ銀の留め具が、灯りを鈍く返す。

 セイルはそれを持ち上げ、はめる代わりに裏返した。縫い目から、髪の毛ほど細い紫の封蝋がのぞく。

「安全用なら、試験官が先にはめても問題ありませんね」

 ざわめきが止まった。

 前の人生では「はい」と答えた場面で、今度は笑って手袋を差し出す。ヴァルガの頬が引きつった。

「規定外の要求だ。素手で触れれば失格に――」

「規定には『受験者の任意で保護具を使用できる』とあります。任意です」

 昨夜まで門番として百回読んだ学院規則だ。セイルは手袋を机に置き、裸の指を水晶へ触れた。

 曇るどころではなかった。

 透明な球の中心に白い星が生まれ、青、金、紅の光輪が一息ごとに増える。七重目で測定台が震え、八重目で窓の外の訓練用ゴーレムが一斉に跪いた。

 誰も笑わない。最前列で嘲笑していた上級生は椅子を蹴って立ったが、彼の胸章まで水晶の光に照らされ、封蝋と同じ紫へ変色した。妨害に関与した者へ反応する学院の古い警告色だ。書記官が無言でその名を記録する。

 測定台の目盛りは端まで振り切れ、針そのものが金色に溶けた。水晶の側面に、見たことのない文字が浮かぶ。

【適性:全属性/推定魔力量:測定不能】

 前の人生では必ず赤く点灯した不合格札が、静かに裏返った。

【特待生首席――セイル・ノクス】

 ヴァルガではなく、学院長が最初に立ち上がった。