氷の中の苦味

八月の山荘で、評論家の宗方冬一が二口目のアイスティーを飲んだ直後、喉を押さえて倒れた。向かいには編集者の御子柴廉が座り、卓上には二つの背の高いコップが残った。救急医は即効性の毒物だと告げたが、同じピッチャーから注がれた御子柴の一杯は無事だった。

食堂にいたのは三人だけだ。朝食を作った料理人の葛城巴、宗方の姪である早瀬環、原稿を受け取りに来た御子柴。三人とも、宗方が遺言を書き換える予定だったと知っていた。

臨時に捜査を手伝うことになった薬剤師の名取弦は、余計な品を調べさせなかった。

「見るべきものは三つです」

一つ目。ピッチャーの残りと、御子柴のコップからは毒が出なかった。

二つ目。宗方のコップに残った白く濁った氷だけを溶かすと、毒が検出された。御子柴の透明な氷からは何も出ない。

三つ目。製氷室の鍵は葛城の腰紐につながれ、氷を各コップへ入れたのも彼女一人だった。朝食帳には、知覚過敏の宗方へは氷一個、ほかの客へは三個とする彼女自身の書き込みが三日分残っている。早瀬と御子柴が来た時、二杯はすでに盆の上だった。

葛城は腕を組んだ。

「でも、氷は同じ型から出しました。濁り方なんて水のせいでしょう」

「同じ型なら、なおさら妙ですね」

名取は二つのコップを窓へ透かした。片方の底で、最後の白い角がゆっくり痩せていた。

早瀬は遺言を気にしていたことを認め、御子柴も未完の原稿をめぐる口論を隠さなかった。それでも二人は製氷室へ入れない。御子柴が、宗方は自分で杯を選んだと言うと、葛城はかすかに笑った。

「選んだのなら、私には狙えないはずです」

「狙えます。宗方さんは冷たい物で歯がしみるため、いつも氷の少ない方を選ぶ。あなたは毒液を凍らせた濁った一個だけを片方へ、透明な氷を三個もう片方へ入れた。ピッチャーが無毒で、毒が濁った氷にだけあり、製氷と配膳を独占したのがあなただという三点は、その一つの仕掛けしか示しません。自由に選ばせたのではなく、あなたが毎朝守ってきた習慣で、氷一個の方を選ばせたのです。偶然を装うための知識まで、朝食帳に自分で残してしまった」名取が濁った氷を指すと、葛城の笑みだけが先に溶けた。