注文票の外のポタージュ

火曜日の十二時、透子は会社裏のスープスタンドで、丸パンとコーヒーだけを頼んだ。転職して三週間、昼食代まで慎重になる自分を、まだ誰にも知られたくなかった。

ところが窓際に座ると、かぼちゃのポタージュが置かれた。

「注文してません」

「試飲です」と店長の梶谷は言った。

試飲なら金曜のはずだ。怪しいのは梶谷、隣の部署の弓削、それから毎週同じ時刻に来る銀髪の宇佐見さん。弓削は透子が節約中だと知っている。宇佐見さんには先週、決済アプリの使い方を教えた。梶谷なら、もちろん自由に料理を出せる。

透子はカップを見た。レシートにポタージュはなく、底に小さく「NEXT」の判がある。いつも仕上げに振られるシナモンがない。そして蓋の縁に、青い毛糸が一本挟まっていた。宇佐見さんの編み物袋と同じ色だった。

「宇佐見さんですね」

梶谷は観念したように笑った。店には、先客が代金を置き、次に来た誰かへ一杯を贈る「次の人へ」という仕組みがある。宇佐見さんは四杯分を払い、火曜日の、シナモンが苦手な若い女性へ、と頼んだのだという。

本人は少し離れた席で、編み針ばかり見ていた。

「アプリのお礼なら受け取れません」

「だから、お礼じゃないの」宇佐見さんは顔を上げた。「あの日、できないって決めつけなかったでしょう。私も、あなたが大丈夫だって決めつけたくなかっただけ」

弓削が気まずそうに財布を引っ込めた。彼女もパンを一つ追加しようとしていたらしい。

転職前の職場では、昼休みに誘われるたび、断る理由を考える方が疲れた。新しい会社では最初から一人で食べれば傷つかないと思い、誰より早く席を立っていた。けれど宇佐見さんも弓削も、その一人を勝手に寂しいと決めず、ただ選べる一杯を置いてくれた。その距離が、今の透子にはありがたかった。

店の外では、昼休みを告げる信号が青へ変わり、同じ会社の人たちがまとまって横断歩道を渡っていた。透子は初めて、その輪を避けずに眺めた。

透子は湯気に口を寄せた。甘いかぼちゃの後から、塩気がゆっくり追いついた。

「次の火曜は、私が誰かの分を置きます」