海側のカーテン
【タワーマンション四一〇七号室死亡事件・聴取記録】
四一〇七号室の女性は、午後九時から十時の間に寝室で殺害された。
夜間コンシェルジュは、死亡推定時刻より後まで彼女が生きていたと証言した。
「午後十一時十二分に、部屋から内線がありました。空調の調子が悪い、と。声は間違いなくご本人でした」
「その後は?」
「十一時二十分ごろ、海側の寝室のカーテンが閉まりました。左、右の順です。左側は途中で少し引っ掛かっていましたが、最後には閉まりました。十一時四十分に照明が消えています」
男は勤務日誌にも同じ内容を書いていた。
「どこから見たのですか」
「防災センターのモニターです」
「住戸内を映すカメラはありません」
「窓の明かりを、外周カメラで見たんです」
捜査員はマンションの立面図を広げた。
防災センターは建物の北側一階にある。
四一〇七号室の寝室は南側、海に面している。低層棟が張り出しているため、地上のどの位置からも窓は見えない。外周カメラも三十階より上を撮影できなかった。
「巡回で屋上へ上がったときに見たのかもしれません」
「屋上からは庇が邪魔になります。それに午後十一時台、あなたのカードが屋上扉を開けた記録はない」
男は黙り込んだ。
続いて、マスターキーの履歴が示された。
午後八時五十四分、四一〇七号室解錠。
使用者は夜間コンシェルジュ。
退出記録はない。
「居住者から安否確認を頼まれたんです」
「依頼記録はありません。内線があったという十一時十二分には、被害者はすでに亡くなっています」
「録音が残っていないなら、死亡時刻のほうが間違っているのでは?」
捜査員は現場写真を一枚、机へ置いた。
寝室のカーテンは左側だけが完全に閉じず、人の腕ほどの隙間を残して止まっている。床に倒れた被害者の右手が裾を握り、レールを引っ張っていたからだ。
「あなたは日誌に、『左側が途中で引っ掛かった』と書いた」
男は写真から目をそらした。
「窓は遮熱ガラスです。たとえ海上から双眼鏡で見ても、室内のカーテンがどちらから閉じたかまでは分かりません」
捜査員は最後に尋ねた。
「午後十一時二十分、あなたはどこから見ていたのですか」
防災センターの内線が鳴った。
『四一〇七号室から呼び出しです』
男の顔が青ざめた。
部屋は、警察が封鎖してから誰も入っていない。