火曜日欄の給与明細

うちの会社では火曜日が消えるので、月曜の退勤処理は水曜の朝に行う。青いトレーに残した仕事は火曜日分として自動的に片づき、その時間は担当者の残業に加算される。担当者は作業を覚えていなくても、成果物に誤りがなければ訂正してはいけない。

鳰川暁人の給与明細には、毎週きっちり八時間の火曜残業がついていた。

「助かってるよ。君の火曜日は精度が高い」

部長は褒めるときだけ、消えた曜日を所有物のように言った。暁人は水曜の朝、完成した見積書を青いトレーから取り出し、知らない自分の癖を探した。数字の七に横棒を引く。ホチキスは左上から三ミリ。付箋には、丸みのある字で「昼、食べること」とある。

その字だけは暁人のものではなかった。

火曜日担当はもう一人いるらしい、と総務に聞くと、担当者名簿の火曜欄を指で隠された。

「会ってはいけません。引き継ぎは青いトレーだけです」

それが規則だった。

暁人は付箋で返事をした。水曜には返事があった。好きな缶コーヒー、苦手な営業、駅前で咲いている白い花。顔も声も知らない相手との会話は、月曜の夜に置き、水曜の朝に拾う。土日は長く、月曜は少しだけ待ち遠しくなった。

三か月後、会社は火曜日分の人件費を削ると発表した。火曜担当を一名に統合し、余った一名は「勤務実体なし」として契約終了にするという。

部長は暁人に選択票を渡した。自分の名前か、空欄か。空欄を残せば、もう一人が消える。自分を書けば、暁人の火曜日だけでなく、月曜から金曜までの席がなくなる。

月曜の二十三時五十分、暁人は自分の名前を書いた票を青いトレーに置いた。その上に退職届も重ねた。

「顔も知らないのに、馬鹿だな」

誰もいないフロアで言うと、消灯したコピー機が一度だけ動いた。

水曜の朝、社員証は反応しなかった。受付に預けられた私物箱の上に、採用通知が一枚あった。差出人は空欄で、勤務日は火曜日、勤務地はこの会社の十三番会議室と記されていた。

箱の底には、青い紙コップが二つ入っていた。一つには暁人の名、もう一つには名前の代わりに丸い字で「昼、食べること」。

どちらのコーヒーからも、まだ細い湯気が立っていた。