火花一粒の竜退治
「火花を一粒飛ばすだけ? それを火魔法と呼ぶのは炎への侮辱だ」
王立魔法院の判定官は、トアシュの札へ「無能」と記した。
【魔法:《火種》――視界内の乾いた可燃物一つへ、一日に一度だけ小さな火花を生む】
薪一本に火をつけるにも、風があれば消えるほど弱い。トアシュは城壁の灯油倉庫へ回された。
一日一度の火花は仕事にも使えず、彼は火打石で二百本の灯芯を点けた。その代わり、湿った芯、乾いた粉、油の燃え移る順番だけは、炎術師より詳しくなった。
その日の夕刻、鉄殻竜が王都へ降りた。
鱗は魔法を反射し、口から吐く爆炎で外門を半分溶かした。炎将グレザールの火槍も、竜の胸で折り返され、味方の塔を焼く。兵は水を浴びせたが、鉄の鱗は冷えるほど硬くなった。
トアシュは灯油樽を運びながら、竜の喉を見た。
咆哮のたび、鉄の歯の奥で黒い粉が舞う。竜は腹の火袋で着火する前に、喉へ乾いた爆粉を送り込んでいた。外から放つ炎は鱗に弾かれる。ならば、火を外から通さなければいい。
「口を開かせてください」
グレザールは鼻で笑いながらも、最後の火槍を竜の顔へ投げた。反射された炎に怒り、鉄殻竜が大きく口を開く。
トアシュには、喉奥の黒い一粒が見えた。
《火種》。
火花は空を飛ばなかった。指定した爆粉の上で、直接生まれた。
竜の咆哮が途中で裏返る。喉から腹へ続く爆粉が一斉に燃え、鉄殻の内側だけで爆発した。外へ向けて閉じていた鱗が、今度は炎を逃がさない。胸板が赤く膨らみ、留め金が次々に弾けた。
露出した火袋へ、グレザールの剣が突き刺さる。
鉄殻竜は門へ届く前に膝をつき、黒煙を吐いて倒れた。
判定官が「爆粉が見えた幸運だ」と言いかける。
炎将は焦げた無能札を拾い、その男の胸へ押しつけた。
「我らは火を大きくすることしか考えなかった」
グレザールは自分の赤い魔章をトアシュへ渡す。
「炎が要る場所を選べる者のほうが、炎を知っている。今日から我が軍の最初の火は、おまえが点けろ」