灰冠竜の心臓で冬を追い出す
「今夜までに火を戻さなければ、村の半分が凍える」
雪まみれの妹から届いた伝書を読み、アルドは灰冠竜の前で斧を握り直した。領主は税の滞納を理由に薪を没収し、共同炉まで封印した。村では椅子も柵も燃やし尽くし、母親たちは最後に残った嫁入り箱を割っていた。それでも夜を越せない。必要なのは金でも剣でもない。竜が百年に一度だけ落とすという《常春の炉心》だ。
アルドの固有能力《救難指定ドロップ》は、倒す前に救いたい場所を一つ定めれば、ボスの限定品を必ず残させる。ただし討伐は自力だ。
灰冠竜が吐いた火を、炭焼き場で鍛えた読みでかわす。喉が赤く膨らむ瞬間、濡れ布を投げ込み、顎の下へ斧を打ち込んだ。巨体が崩れると、灰の中に拳ほどの赤い石が転がった。
《常春の炉心》。
名を確かめるだけで、アルドは村へ走った。
共同炉の前では、領主の兵が扉を塞いでいた。
「使用税を払え。火は領主様の財産だ」
「なら、火のほうに持ち主を選ばせる」
アルドは封印札ごと炉扉を蹴り開け、冷え切った火床へ炉心を置いた。
音は小さかった。薪が爆ぜるよりも静かに、赤い光が床下の古い熱道へ流れ込む。次の瞬間、村中の煙突から白い湯気が上がった。凍った井戸がほどけ、子供の青い指に血色が戻り、寝台の老人が毛布を一枚はねのける。凍結して止まっていた粉ひき車まで回り出し、明日のパンを焼ける音が村中に響いた。
一方、領主館だけは暗いままだった。炉心は「最も多くの命を暖める経路」を選び、独占用に切り離された館の配管を拒んだのだ。
馬車で駆けつけた領主が怒鳴る。
「私の館にも熱を寄越せ!」
村長は暖かな扉の内側から答えた。
「皆と同じだけ薪を運び、皆と同じ席に並ぶなら」
アルドは斧を壁に立て、ようやく手袋を外した。妹が差し出したスープの椀は、指が驚くほど熱かった。誰も火を奪いに来ない食卓で、アルドは今年初めて湯気をゆっくり吸い込んだ。
そのとき、使い終えた炉心の上に初めて金文字が浮かぶ。
【限定SSR《常春の炉心》――世界初稼働を確認しました】