炎上より先に橋を架けろ
《また売名救助? 崩落の瞬間からカメラ回してたよな》
《救助隊が止めてるのに突っ込むとか、反省ゼロ》
《どうせ結城マコトと仕込んだ茶番だろ》
赤熱谷第九層。中継橋は落ち、黒い岩島に五人の探索者が取り残されていた。
配信者・天城迅の画面には、三日前から続く炎上の文字が流れている。崩落現場へ誰より早く着いたせいで、事故を予告していた、再生数目当てに細工した、と決めつけられたのだ。スポンサーは即日降板し、救助資格の停止を求める署名まで十万を超えた。
それでも迅は配信を切らなかった。位置情報と足場の状態を、公式隊へ送り続けるためだ。靴底は長い迂回で裂け、血がにじんでいる。
迅は弁明しなかった。対岸で膝を抱く新人の少女へ、手のひらを見せる。
「今から道を出す。走らなくていい。歩いて来い」
《道? 溶岩幅六十メートルだぞ》
《飛行スキルは禁止層。ロープも燃える》
《待って、迅の移動履歴を見ろ。四十二分前に下層を一周してる》
迅は靴底を岩へ一度だけ打ちつけた。
乾いた音が谷を渡る。
直後、彼が今日踏んだ足跡のすべてが青白く発光した。点は線になり、下層を巡っていた軌跡が空中へ持ち上がる。細い光路は幾重にも束ねられ、島と安全地帯を結ぶ透明な橋になった。
迅の固有技能《帰路舗装》。一日に一度、自分が歩いた道を、誰でも通れる足場として再配置する能力だ。
《だから事故前から遠回りしてたのか》
《崩落を予知したんじゃない。崩れた場合の帰路を先に作ってた》
《検証班:足跡ログは事故発生より四十三分前。仕込み不可能》
一人目が橋へ足を置く。揺れない。
最後尾の結城は負傷者を背負い、迅の前まで渡り切った。礼を言おうと口を開いたが、迅は首を振り、少女の擦りむいた膝へ救急布を巻いた。
「配信で説明しろよ」と結城が言う。
「助けたあとで十分だ」
《売名なら一番映えるところで喋るだろ》
《五人全員、生命反応安定》
《さっきまで叩いてた。ごめん》
《これは配信者じゃなくて救助者だ》
谷の警報が止み、画面上部に金色の通知が割り込んだ。
【日本ダンジョン庁公式認定――天城迅《先行避難路構築者・特級》】