父親採用試験は不合格

 母の再婚相手が挨拶に来た夜、十三歳の私は食卓へ面接票を置いた。

「これから父親採用試験を始めます」

 母はむせ、向かいの男は背筋を伸ばした。

「よろしくお願いします」

「第一問。料理はできますか」

「卵焼きだけ」

「減点。私は甘い卵焼きが嫌いです」

「では塩味を練習します」

「迎合はさらに減点」

 第二問。数学を教えられるか。答えは中学一年で挫折。

 第三問。門限を破ったらどうするか。

「理由を聞く」

「模範解答っぽい」

「心配したぶん怒るかもしれない」

「正直なので一点」

 最後の質問だけ、紙を見ずに尋ねた。

「私のお父さんの代わりになれますか」

 実の父とは月に一度会っていた。嫌いで別れたわけではないと、母は言う。だから余計に、誰かがその席へ座るのが許せなかった。

 男はすぐに答えなかった。

「なれません」

 母が不安そうに彼を見た。

「あなたのお父さんは、もういるから。僕が応募しているのは別の役です」

「何の役」

「まだ名前がない。あなたと暮らしながら決めたい」

 私は面接票の〈父親〉を二重線で消した。

「不合格です」

「そうですか」

「ただし、家族見習いとして三か月の試用期間を認めます」

 母が笑い、男は本気で頭を下げた。

 試用期間中、彼は塩味の卵焼きを三度焦がした。私の試験前には数学を教える代わりに、分からない問題を一緒に調べた。門限を二十分過ぎた日は、怒る前に温かい飲み物を渡し、そのあと長く説教した。

 三か月後、本採用の話はしなかった。

 一年後も、三年後も。

 私が大学進学で家を出る朝、彼が玄関で尋ねた。

「ところで、試用期間はいつ終わるんでしょう」

「とっくに終わってる」

「合格通知をもらっていません」

「父親には不採用のままだから」

 彼の顔が少し曇った。

 私は新しい面接票を渡した。役職欄には〈私の家族〉、雇用期間には〈無期限〉と書いた。

「この仕事、卵焼き以外も必要ですか」

「必要。帰ってきたとき、迎えること」

「それならできます」

 母が靴箱の陰で泣いていたので、二人で見ないふりをした。

 家族には、最初から名前のある役ばかりではない。

 一緒に暮らすうち、呼び方より先に、そこにしかない仕事が増えていく。