王都防壁の青い透かし
王都西壁の完成式で、技監グレヴァン・モルドは、集まった貴族たちに深々と頭を下げた。
「崩落を防ぐ三重支柱式は、私が三年をかけて完成させました」
拍手が起きる。その列の端で、設計局の下級技師レティア・ノールは黙っていた。彼女が冬のあいだ寝台にも戻らず計算した図面は、今朝からグレヴァンの名で展示されている。
「レティアは清書係です。若い者には、よい勉強になったでしょう」
笑いまで起きた。
国王付きの建築監査官が、展示台の図面を指した。
「では技監。この図面の全責任があなたにあると、ここで誓えますか」
「無論です」
グレヴァンは待っていた言葉だとばかりに、責任誓約欄へ署名し、金の印章を押した。これで褒賞金も爵位も自分のものになる。彼はレティアを見て、勝ち誇ったように顎を上げた。
監査官は図面を持ち上げ、窓から差す朝日の前へかざした。
青い透かし文字が、紙の奥から浮かび上がる。
王立設計局の用紙には、線を引いた者の魔力が一画ごとに記録される。偽造防止のため、技監以上しか知らない仕組みだった。ところがグレヴァンは、透かしを調べることなく、レティアの原図をそのまま持ち出していた。
壁面いっぱいに拡大された記録には、基礎、支柱、排水路、そのすべてに同じ名が並んだ。
――設計者、レティア・ノール。
グレヴァンの名が現れたのは最後の一行だけだった。
――表題欄の氏名を削除。グレヴァン・モルドへ変更。
会場の拍手が、嘘のように消えた。
「こ、これは部下の魔力を借りて私が――」
「今しがた、全責任は自分にあると署名されましたな」
監査官は誓約書を裏返した。虚偽申告には、設計権の永久剥奪と公金詐取の罪が適用される。レティアは説明しなかった。ただ、自分の名が浮かぶ図面をまっすぐ見上げた。
監査官が図面を壁の模型へ重ねると、三重支柱は寸分違わず噛み合った。貴族たちは、先ほど清書係と呼ばれた娘の線だけが王都を支えていることを、目の前の石組みで思い知った。グレヴァンの金印は、模型のどこにも必要とされていなかった。
国王が短くうなずき、監査官は封書を開いた。
「王命を読み上げる。グレヴァン・モルドを、本日付で王立設計局技監の職から解任する」