疑問形の処刑台

四方田律は、開始の鐘と同時に霞ヶ浦誠司へ尋ねた。

「この質問に、あなたは『いいえ』と答えますか?」

誠司の喉が鳴った。

白い部屋の中央には椅子が二脚。壁には一行しかない。

〈交互に一度だけ、はい・いいえで答えられる質問をする。回答者は十秒以内に『はい』か『いいえ』を答え、嘘または無回答なら敗北する〉

勝者だけが首輪を外される。主催者は、互いの過去を暴かせるつもりだったらしい。律の前には、誠司の横領記録。誠司の前には、律の妹を見殺しにした病院記録。どちらも、憎しみを誘うために丁寧に並べられていた。

だが律は一枚も読まなかった。誠司が何を隠しているかより、規則の疑問文に逃げ道があるかだけを考えた。卓上の資料は人間を見ろと迫り、壁の一文は言葉を見ろと告げていた。

残り七秒。誠司は額に汗を浮かべる。

「はい」と答えれば、実際には『はい』と答えたのだから、「いいえと答える」という内容は偽になる。つまり『はい』は嘘だ。

では「いいえ」ならどうか。実際に『いいえ』と答えた以上、「いいえと答える」は真になる。その真の内容へ『いいえ』と否定を返すのだから、やはり嘘になる。

どちらも出口ではない。

「こんなの質問じゃない。罠だ!」

『規則上は疑問文です』と天井の声が淡々と返した。

誠司は律を睨みつけた。残り三秒。沈黙すれば無回答で敗北する。

「いいえ!」

赤い判定灯が点いた。

〈虚偽回答を確認〉

誠司の首輪が締まり、彼は椅子から崩れ落ちた。律の首輪だけが床へ外れる。

『なぜ個人情報を使わなかった』

主催者の声には、初めて苛立ちが混じっていた。

律は開いた扉の前で振り返る。

「あなたは、人は秘密を見せれば必ず相手を刺すと思っている。でも言葉は、秘密より先に人を殺せる」

白い壁にはまだ疑問符の影が残っていた。答えが存在しない質問こそ、この部屋で最も正直な凶器だった。