百人分の重さを預かる寝台

城壁通りの外れにある宿《錆びた月》へ、盾役のグレムが入ってきたのは、雨が石畳を白く煙らせる夜だった。

「一人だ。食事はいらん。床だけ貸してくれ」

受付にいたナシュアは、彼が背負う大盾より、肩が不自然に沈んでいることを見た。鎧を脱いでも、沈み方は変わらない。

グレムの固有技能《身代わり》は、仲間が受けるはずの衝撃を引き受ける。討伐は成功した。だが技能が切れず、百人分の重さが肩に残っている。高級治癒院では「怪我ではない」と断られ、普通の寝台は三台も潰したらしい。

「うちで一番安い部屋に、重さ預かりの寝台があります」

ナシュアが案内した寝台には、四隅に太い真鍮柱が立ち、床下へ鎖が伸びていた。

「壊したら弁償はできんぞ」

「壊れません。横になったら、今日背負ったものを一つずつ思い出してください」

半信半疑でグレムが身を沈める。最初に寝台が軋み、次に床が唸り、最後には宿全体が低く息を吐いた。柱へ赤い線が一本ずつ灯るたび、彼の眉間から皺が消えた。

仲間を守った衝撃。崩落を止めた腕。撤退の最後尾で受けた牙。

すべてを数え終える前に、グレムは眠っていた。

深夜、真鍮柱は一度だけ赤く焼け、鎖の先で地面が重く鳴った。それでも寝台は沈まず、グレムの呼吸だけが少しずつ浅い戦場のものから、長い休息のものへ変わった。いつも夢に出る「次は誰を庇う」という声も、その夜は柱の向こうで止まった。

翌朝、彼は受付の前で何度も両腕を回した。肩が耳まで上がる。それだけのことに、歴戦の盾役は子供のように笑った。

「俺の重さは、弱さじゃなかったんだな」

「ええ。預ける場所がなかっただけです」

宿代は銀貨二枚だった。グレムは十枚置き、差額を七泊分の前金にした。

「次の遠征から、ここを帰還地点にする」

大盾を軽々と背負い、彼が雨上がりの通りへ出る。扉が閉じても、真鍮柱にはまだ朝日のような熱が残っていた。

ナシュアが硬貨を数え終えたとき、もう一度、入口のベルが鳴った。