盆踊りは四拍遅れて
高校生の孫娘が、町内会の盆踊りを電子音楽に編曲すると言い出した。
「若い人が来ないんだから、変えなきゃ」
保存会長の祖父は、太鼓の撥を机へ置いた。
「変えたら、保存にならん」
「誰も踊らないものを保存してどうするの」
会議はそこで決裂した。
孫娘は腹を立て、物置から古い太鼓の録音を探した。段ボールの底に、一本のカセットテープがあった。
〈昭和五十八年 新盆踊り案〉
再生すると、聞き慣れた節の後ろで、場違いなエレキギターが鳴った。テンポも今より速い。若い男の声で、「これなら高校生も踊る」と笑っている。
声の主は祖父だった。
「伝統を変えるなって言ったよね」
テープを突きつけると、祖父は渋い顔をした。
「あのころは、今の踊りが古すぎた」
「今も同じじゃん」
「俺の案は、当時の会長に半分以上削られた」
「でも残った半分が、今の伝統なんでしょ」
祖父は返事をしなかった。
祭りまで一週間。孫娘は編曲をやり直した。昔の歌声と太鼓を中心に残し、間奏だけ電子音を入れた。祖父にも聞かせた。
「太鼓が軽い」
「じゃあ本物を叩いて」
「命令するな」
「協力をお願いしています、会長」
祭りの夜、最初の一曲は昔どおりに演奏した。年配の人たちが輪へ入り、子どもは見ているだけだった。
二曲目、低い電子音が響いた。若者たちがスマートフォンを上げ、恐る恐る輪へ入る。
祖父は櫓の上で腕を組んでいた。
孫娘が四拍数えた。
一、二、三、四。
祖父の太鼓は入らなかった。
次の四拍で、腹へ響く音が一つ落ちた。そこからは昔の節と新しい音が、喧嘩するように重なった。
踊り方の分からない若者へ、年配者が手を見せる。年配者がリズムを外すと、若者が笑って合わせる。
曲のあと、祖父は汗を拭った。
「間奏が長い」
「来年直す」
「来年もやるのか」
「保存するんでしょ」
祖父は孫娘の頭を撫でようとして、もう子どもではないと気づき、手を引っ込めた。
代わりに撥を一本渡した。
「次は、お前が四拍遅れるな」
伝統とは、昔の形を動かさないことではない。
違う世代が輪へ入るまで、音を鳴らし続けることだった。