盾の陰で鳴る鈴
灰冠パーティーで、エメルの役目は小さな鈴を鳴らすことだった。
剣も振らず、魔法も放たない。迷宮へ入る前に糸へ鈴を結び、曲がり角や崩れやすい床へ垂らす。隊長ドレイグは、それを臆病者の遊びと呼んだ。貢献板に映る値も2%。笑いものになる低さだった。
「音を立てれば魔物を呼ぶだけだ。次の探索から外れろ」
エメルは鈴を袋へ戻した。最後に、誰の盾の裏にも同じ傷があることを告げたが、ドレイグは聞かなかった。
次の迷宮で、灰冠は静かに進んだ。鈴がないぶん快適だと、みな最初は笑っていた。
だが広間へ入った瞬間、壁から矢が降った。避けた先の床が沈み、逃げ込んだ通路から石獣が現れる。罠が重なるたび、隊列は奥へ追い込まれた。ドレイグは偶然だと怒鳴ったが、盾の傷は増えていく。
迷宮の入口で置き忘れた外套を受け取りに来たエメルは、遠くの衝撃を聞いた。彼女は追放札を握り潰し、鈴を投げた。
澄んだ音が右で鳴ると石獣がそちらへ向き、低い音が左で鳴ると矢の仕掛けが先に作動した。エメルは罠を解除していたのではない。罠と魔物を互いへぶつけ、仲間の通る空白を作っていたのだ。
灰冠は、その空白だけを歩いて帰還した。
帰り道で、新人が泥の中から鈴を拾った。音が鳴るたび危険が遠ざかっていたのだと、今になって気づいたらしい。古参たちは、自分たちの勘で罠を避けてきたつもりだった。エメルは何も責めず、曲がった鈴の舌を指で直した。ドレイグだけが、その手元を見られなかった。
ドレイグは広場で、救出は自分の判断だったと言い張った。すると全員の腕輪が震え、探索記録が再生された。これまで敵が現れなかった道、矢が盾を避けた角度、追撃が別方向へ流れた理由。その中心で、いつも鈴が鳴っていた。
エメルは差し出された古い役札を受け取らなかった。
「音を雑音と呼ぶ人には、もう進路を決めさせません」
《隊内貢献・真正算定》
申告値:2% → 真値:97%
働き順位:首位 エメル
役割更新:鈴持ち → 危機誘導長
旧隊長ドレイグ:エメルの進路指示待ち