砂を詰めた俵

烏丸城の兵糧蔵には、米が三升しか残っていなかった。

兵糧奉行の柊木丈馬は、その三升を二十俵の口へ薄く敷いた。下は川砂だ。持ち上げれば重い。鼠が噛めば白米がこぼれる。腹を満たす役には立たないが、敵の目を満たすには足りる。

夜半、包囲軍から榊ノ原備前が降伏勧告に来た。丈馬と同じく、数字で人を殺す男だった。備前は広間へ通されても城主を求めず、真っ先に兵糧蔵を見せろと言った。

「明朝までに門を開けば、足軽と民は助ける」

「明朝攻めれば、そちらの足軽が減る」

「減るのは、どちらが先かな」

丈馬は答えず、一番手前の俵を蹴った。砂の詰まった音は、米より鈍い。備前の眉が動いた。

俵の脇には、城内最後の鼠がいた。丈馬が昼から何も食わせず、縄でつないでおいたものだ。鼠は藁を噛み破り、表面の米を散らした。白い粒が燭台の下へ転がる。

備前は一粒を拾い、歯で割った。本物だ。

「俵を開けろ」

「客人の前で蔵を荒らす作法はない」

「砂でも入っているのか」

丈馬は笑わなかった。笑えば、当たりだと教える。

「砂なら、三日待てば分かる。米なら、三日待ったことを悔やむ」

城の兵は二百。敵は六千。戦えば朝まで持たない。だが敵将は、勝てる戦で百人失うことを嫌う。備前はその臆病を忠義と呼んで出世した男だった。

備前は俵の綴じ目を指でなぞった。丈馬の右手は袖の中で短刀を握っている。切られれば斬る。斬れば交渉は終わる。交渉が終われば、城も終わる。

やがて備前は米粒を床へ落とした。

「三日だ。四日目の朝に攻める」

「城主へ伝える」

備前が去ると、丈馬は俵にもたれた。砂の重さが背骨へ返る。廊下の向こうで、女たちが子を起こす気配がした。三日は要らない。半刻あればよかった。敵は俵の重さを信じた。城内の者は、その重さが何も食わせないことを知っていた。

城主は礼を言わず、城に残る者の名だけを読み上げた。丈馬の名もあった。

敵陣の篝火が一つ消える。

丈馬が俵の口を切ると、砂が蔵いっぱいに流れた。その音に紛れて、烏丸城の水門が内側から開き始めた。