祭壇の外に三つの灯

国境結界を張り損ねた夜、リュシエンヌの失敗で砦の半分が焼けた、と記録された。責任を取る方法として父が選んだのは、敵国のバルモン公へ娘を嫁がせることだった。

婚礼の日、礼拝堂には味方の席が一つもなかった。かつて共に旅をした三人にも招待状は送られていない。失敗した自分を助ければ反逆者になる。来るはずがない、とリュシエンヌは白い手袋の中で爪を立てた。幼い頃、病で魔力を失った姉も「役目を果たせない」という理由で遠縁へ送られた。だから父の見送りの言葉は、祝福ではなく最後通告にしか聞こえなかった。

「誓いを」

司祭が促した瞬間、正面扉が開いた。

傭兵隊長バルクが入ってきて、抜身ではない剣を祭壇の前へ横たえた。

「預ける。今から俺の両手は、おまえを連れて帰るために使う」

続いて魔術師シアンが、来賓席の最前列に一脚だけ椅子を足した。自分は床に座り、空いた席を軽く叩く。

「君の席。砦でも、研究塔でも、いつでも空けてある」

裏口からは馬車の鈴が三度鳴った。御者台のトビアが、雨に濡れた帽子を振っている。

「出発時刻は花嫁さまが決める。日が暮れても待つよ」

バルモン公が兵を呼ぼうとした。だがシアンが凍らせた婚姻状には、結界崩壊の真因が浮かんでいた。公の密偵が術式を切った記録。政略結婚は賠償ではなく、証人を囲うためだったのだ。

リュシエンヌは胸の奥が冷えるのを感じた。真相が出ても、三人はきっと自分の判断ミスまで許してはくれない。また役に立たないと分かれば、今度こそ置いていかれる。

「私も、見抜けなかった」

そう告げると、バルクは剣を拾わなかった。シアンは空席を戻さなかった。トビアの馬車も動かなかった。

「だから次は四人で見抜く」と、三人がほとんど同時に言った。

リュシエンヌは自分でヴェールを外し、祭壇に置いた。誰の手を選ぶこともなく、まず空いた席へ座る。剣がその足元を守り、馬車の灯が扉の外で揺れていた。

彼女の帰る場所は、もう一つの城に決められるものではなかった。