私は伝書鳩を辞めます

 両親が離婚してから、私は毎週水曜日に家を替える。

 母の家を出るときは言われる。

「お父さんに、来月の塾代まだって伝えて」

 父の家を出るときは言われる。

「お母さんに、日曜の予定を勝手に変えるなって言って」

 最初はきちんと運んだ。

「お母さんが塾代って」

「またお金の話?」

「お父さんが日曜の予定を」

「あなたも嫌だったでしょう?」

 伝言を渡すたび、返事まで持たされた。私は娘ではなく、羽のない伝書鳩になった。

 ある水曜日、学校で書いた作文を二人へ見せることになった。題は〈将来なりたいもの〉

〈私は伝書鳩になりたくありません〉

 母は途中で顔を上げた。

 父は最後まで読んでから、「鳥の話じゃないよな」と言った。

「二人とも、私を通して喧嘩する。私が言い間違えたら、どっちかが怒る。両方の家で、もう片方の悪口を聞く。水曜日が近づくと、お腹が痛くなる」

 母は「そんなつもりじゃ」と言いかけ、やめた。

 父も「直接話すと揉めるから」と言ったあと、黙った。

 私は作文の裏へ、自分で作った規則を書いた。

〈一、連絡は大人同士でする〉

〈二、私に相手の様子を探らせない〉

〈三、相手の家で楽しかった話をしても、嫌な顔をしない〉

〈四、予定変更は私を含めて三人で決める〉

「四番は面倒だな」

 父が言った。

「私の予定なんだから、私がいないほうがおかしい」

 その日、三人だけの連絡画面を作った。塾代も面会日も、私の前で直接書く。怒ったときはすぐ送らず、一時間置く決まりも足した。

 最初の一か月は失敗ばかりだった。母は私へ「お父さん、既読なのに返さない」と言い、父は「お母さん最近誰かと」と聞いた。

 私はそのたび、両腕を鳥のように広げた。

「伝書鳩は退職しました」

 二人は気まずそうに謝った。

 やがて水曜日、父の家へ向かう私に、母が言った。

「楽しんできてね」

 父の家では、母と行った映画の話をした。父は一瞬だけ黙り、それから感想を聞いた。

 離婚しても、私は二人の子どもだ。

 でも二人の間を飛び続ける鳥ではない。

 自分の足で、二つの家へ帰る人なのだ。