突進する竜を空き枠へ

荷物持ちのザイルは、勇者隊で最も役に立たない男と呼ばれていた。

剣も魔法も使えず、持てるのは木箱三つ分。討伐の帰りには、勇者ローディスがわざと血まみれの盾を放り投げてくる。

「収納しかできないなら、せめて黙って運べ」

ザイルの視界には、十五歳の鑑定で得た一文がずっと浮かんでいた。

【固有スキル《状態収納》:接触した無生物を一枠に格納する。格納時、その対象が持つ状態も保存される】

壊れた剣を新品に戻せるわけでもない。熱い鍋を熱いまま運べる程度だ。誰も「外れ」とした判定を疑わなかった。

討伐報酬の分配でも、彼の名だけは毎回消された。それでもザイルは、村人から預かった薬や手紙を一つも壊さず届けた。勇者たちが酒場で自慢している間、荷の持ち主を探して夜道を歩くのが彼の仕事だった。

峡谷を抜ける途中、岩鎧竜が現れた。

勇者の聖剣は鱗に弾かれ、魔術師の雷は地面へ流れた。怒った竜は首を低くし、避難中の村人へ向けて駆け出す。巨体が一歩踏むたび、石橋が砕けた。

「足止めしろ、荷物持ち!」

ローディスはザイルを蹴り出し、自分だけ崖際へ逃げた。

迫る角。逃げ遅れた子どもは、母親から預かった小さな包みを胸に抱いていた。ザイルには、それが自分と同じ「守るべき荷物」に見えた。彼は腰の空き袋を見た。木箱三つ分では竜など入らない。だが説明文は、状態まで保存すると書いてある。

物体そのものを入れる必要があるとは、どこにも書かれていない。

ザイルは竜の角へ掌を当てた。

収納対象に選んだのは角でも巨体でもない。山を崩し、橋を砕き、村人へ届こうとしていた「突進中」という状態だった。

一度だけ念じる。

世界から轟音が抜け落ちた。

岩鎧竜は前脚を上げた姿勢のまま静止し、次の瞬間、勢いを失って腹から地面へ転がった。鱗の隙間に聖剣すら通らなかった怪物が、子どもの靴先で鼻を打って目を回す。

逃げていた騎士たちが振り返る。

ローディスの口が開いたまま閉じない。鑑定官は震える指で、ザイルの職業欄を示した。

【職業が《荷物持ち》から《万象状態庫の主》へ書き換わりました】