窓際席は二人ぶん

土曜の午後、ブックカフェ「栞雨」で、私の名で押さえられた窓際席に先客がいた。

三年前に突然会社を辞めた元先輩、榎並さんから「十五時、席は取った」と連絡をもらい、転職の相談に来たのだ。

「野々宮紗良さまですね」

店主の辻堂さんが予約帳を見せる。確かに私の名の下に、同じ時刻、同じ席で「眞鍋千鶴」と書かれていた。

眞鍋さんは銀髪をきれいにまとめた女性で、膝に古い絵本を置いていた。相席では相談しづらい、と言いかけたところで、三つのことに気づいた。

予約欄の二つの電話番号は、どちらも榎並さんから届いた番号と末尾四桁が同じ。眞鍋さんの絵本には、榎並さんがいつも使っていた鳥の付箋。そしてテーブルには、私が頼む前からカフェラテが二杯あった。

容疑者らしいのは、予約を受けた辻堂さん、先客の眞鍋さん、まだ来ない榎並さんだ。

「二重予約をしたの、榎並さんですね」

私が言うと、背後の本棚から、紺色のコートがのぞいた。

「電話番号は榎並さんのもの。付箋も榎並さんが使っていた柄。辻堂さんは、来るのが二人ではなく三人だと知っていた」

榎並さんは観念して出てきた。眞鍋さんは、その母親だった。

三年前、榎並さんは介護のため退職した。送別会も断り、私の「また相談させてください」というメッセージにも返せないままだったらしい。最近ようやく母親を近所に呼び寄せたが、私に事情を話す勇気がなく、二人の名で同じ席を予約した。

「会ってしまえば、ちゃんと謝れると思って」

眞鍋さんが絵本を閉じた。

「この子、昔から大事な話ほど本棚に隠すの」

榎並さんは耳まで赤くして、私に頭を下げた。私は三年分の質問を飲み込み、空いている椅子を引いた。

「相談はあとでいいです。まず、近況報告を半分ずつ」

三人で座ると、辻堂さんが温め直したカフェラテを置いた。泡の上には、鳥が二羽描かれている。

榎並さんが小さく笑った。

「じゃあ、今度こそ、続きを聞かせて」

私は甘い泡をひと口すくった。