窓際最後列、当選
席替えのくじで「窓際・最後列」を引いた瞬間、教室のあちこちから羨ましそうな声が上がった。
僕も机を運びながら、少しだけ勝った気になっていた。先生の目が届きにくく、風が入り、授業中に校庭を眺めても怒られにくい。誰もが欲しがる席だ。
ただし、一つだけ計算外があった。
前の席が、好きな人だった。
隣なら話せる。斜め前なら目が合う。けれど真後ろは、近いのに顔が見えない。見えるのは結んだ髪と、シャツの襟と、英語の時間にこっそり伸びをする肩だけだった。
最初の三日、僕らは一度も話さなかった。
四日目、風が強く吹き込み、彼女のプリントが僕の机まで飛んできた。拾って渡すと、「ありがとう」と振り返った。たったそれだけなのに、心臓が遅れて走り出した。
「この席、いいね」
彼女が言った。
「前なのに?」
「窓に映るから」
見ると、夕方の窓ガラスに、彼女の横顔と僕の顔が薄く重なっていた。彼女は黒板を向いたまま、窓越しにこちらを見ていたらしい。
それから僕らは、ときどき窓に向かって話した。先生が板書している間、口だけで「眠い」と言い、僕が小さくうなずく。彼女が消しゴムを落とせば、僕が足元へ転がす。直接振り返るより、反射の中のほうが目を合わせやすかった。
ある日の放課後、彼女がカーテンを閉めた。窓の中の僕らが消えた。
「席替え、来週だって」
「うん」
「次、どこがいい?」
本当は隣と言いたかった。けれど、言えば今の時間まで欲張りに変わる気がした。
「また後ろでいい」
彼女は少し考え、僕の机に手を置いた。
「じゃあ私は、その前を引く」
「くじなのに?」
「当たるまで念じる」
翌週、僕は廊下側の前から二番目、彼女は反対側の最後列になった。見事に離れた。
くじを見せ合って笑ったあと、彼女は窓のほうを指した。
離れた二つの窓に、教室全体が映っていた。もう反射に頼らなくても、僕らは席を立って話しに行けた。
窓際最後列は一度きりだった。それでも僕は、あの席を当たりだと思っている。景色がよかったからではなく、振り返らないまま誰かと目を合わせる方法を覚えたからだ。