竈灰の赤い雛

城の地下厨房で、卵が割れた。

朝食用の薪に紛れて運ばれてきた、赤黒い石のような卵だった。ひびの奥から金色の目がのぞいた瞬間、料理人たちは鍋を落とし、衛兵は槍を構えた。

「火竜だ! 下がれ!」

生まれたばかりの幼竜は、竈の灰をかぶったまま甲高く鳴いた。喉の奥で火花がはぜ、誰かが悲鳴を上げる。けれど皿洗い係のフィオナには、それが威嚇には聞こえなかった。

彼女は毎日、言葉を持たない火や湯の機嫌を見ている。泡の立ち方、鍋の震え、焦げる前の匂い。料理は任せられないと笑われても、痛みの兆しを見落としたことだけはなかった。

幼竜は右の後ろ足だけを床につけない。持ち上げた足首には、割れた卵殻が輪のようにはまり、柔らかな皮膚へ食い込んでいた。

「怒ってるんじゃない。痛いんです」

「近づくな、下働き!」

止める声を背に、フィオナは膝をついた。熱い皿を洗うための桶から、ぬるま湯を小鉢に移す。いきなり触れず、まず自分の指を湯につけて見せた。

幼竜の鼻が、ひくりと動く。

「これなら熱くないでしょう?」

小鉢をそっと足元へ滑らせると、幼竜は恐る恐る足を浸した。湯気に濡れた卵殻は少しずつ白くふやける。フィオナは木匙の柄を差し込み、力をかけずに輪を広げた。

ぱきり。

殻が外れた途端、幼竜は足を振り、四本の脚で立った。火花はもう飛ばない。代わりに、灰だらけの鼻先がフィオナの手を嗅ぎ、ぺろりと指を舐めた。

衛兵の槍先が下がる。

「まさか、懐いたのか……」

厨房長まで呆然としている。昨日、手際が悪いから辞めさせると言ったその口が、今は開いたままだった。

幼竜はよちよちとフィオナの前掛けを登り、当然のように膝へ丸くなった。そして小さな顎を彼女の腿へ載せ、満足そうに目を閉じる。

赤い鱗の隙間から伝わる熱は焼きたてのパンより穏やかで、炭壺ほどの頭の重みが、フィオナをここにいてよい者として床へしっかりつなぎ止めていた。