紙袋から落ちた羽根

三輪塔子は、職場では灰色がよく似合うと言われていた。

褒め言葉ではないと分かっていたが、否定もしなかった。灰色のカーディガン、黒いパンツ、低い声。経理部の机で数字を合わせる平日は、それで困らない。

土曜だけ、塔子は銀の鎧を着た。空を守る騎士セラの衣装をまとい、背中に白い翼をつける。翼は塩化ビニール管と羽毛で自作し、畳めば押し入れに入る。撮影会では「トーコさん」と呼ばれ、知らない人のカメラに向かって剣を掲げた。平日に飲み会へ誘われても断るのは、衣装の塗装や補修に夜を使いたいからだった。

月曜の朝、紙袋から弁当を出した拍子に、白い羽根が一枚、会議室の床へ落ちた。

衣装の翼から抜けたものだった。よりによって部長の靴先まで滑っていく。

「何これ」

誰かが笑いかけた瞬間、塔子は自分から説明するより先に、羽根を踏んで消したいと思った。だが隣席の能登が拾った。

「緩衝材ですね。昨日、機材を開けたので」

そう言って、自分の資料の下へ挟んだ。塔子は礼も言えないまま、売上表の説明を続けた。

昼休み、非常階段で能登に呼び止められた。

返された羽根の軸には、青いラメがわずかに残っていた。

「空騎士セラの二期衣装ですよね」

能登は社員証の裏から、小さなアクリルキーホルダーを出した。主人公の相棒である整備士の絵柄だった。

「先月の港のイベント、写真を見ました。顔は加工されてたけど、翼の留め具で分かって」

塔子の喉が乾いた。

職場でだけは知られたくなかった。地味で無害な三輪さんと、何百人に写真を撮られるトーコは、混ざればどちらも偽物になる気がしていた。

「誰にも言いません」と能登は先に言った。「好きなものって、本人が渡したい人にだけ渡すものだから」

その言葉に、塔子は羽根を受け取れなくなった。

守られた安堵より、隠すことを当然にしていた自分のほうが、急に寂しく思えた。

「……次のイベント、整備士も出ます」

「知ってます」

「写真、送ります。会社の私から」

能登は少しだけ笑った。

塔子は羽根を資料の間へ戻さず、ペン立ての縁に差した。午後の日差しを受けて、青いラメが灰色の机の上で光った。