罪文字の司祭

祝祭前夜、告解室の格子の向こうで、枢機卿バグナスは笑っていた。

「明朝には、すべて赦された顔で祭壇へ立てる」

見習い司祭ナルセアは、膝の上で両手を重ねた。告解を聞き、赦しの言葉を与えるたび、罪は黒い文字となって聞き手の皮膚へ刻まれる。教会はそれを「聖職者が担う慈悲」と説いたが、実際に座らされるのは、戸籍のない孤児ばかりだった。

格子越しに、バグナスは語り始めた。

献金を拒んだ一家の井戸へ毒を入れたこと。奇跡の骨として売るため、埋葬前の子どもから指を切ったこと。飢饉の施しを倉に隠し、金貨へ替えたこと。

ナルセアが一つ赦すたび、袖の下で文字が焼けた。腕から肩、胸、喉へ。彼の記憶からは罪悪感が消え、声が軽くなっていく。

「最後に一つ」と枢機卿は囁いた。「前任の罪受けが逃げたので、名簿から消し、地下へ埋めた。名は確か――」

ナルセアは格子を開けた。

「赦します」

最後の文字は頬を横切り、瞼まで黒く染めた。

翌朝、大聖堂は満員だった。バグナスが白い祭服で説教台へ上がったとき、ナルセアは中央扉から歩み入った。外套を脱ぎ、手袋を外し、襟を裂く。肌という肌に、昨夜の告解が神聖文字で浮いていた。

ざわめきが波のように広がる。神の前で交わされた告解の文字は、偽造できない。枢機卿は彼女を捕らえろと命じたが、近衛司祭たちは動かなかった。彼の罪が、日付も被害者の名も伴って、ナルセアの身体に並んでいたからだ。

「読むな!」

彼女は喉に刻まれた文から読み上げた。声を出すたび、文字は深く沈み、皮膚の下で墨の虫のように蠢いた。最後の一行まで読んだところで、群衆の中から、地下を掘れという叫びが上がった。

バグナスは祭壇から引きずり下ろされた。

勝ったのだと、誰かがナルセアの肩を抱いた。

彼女は正面の銀器に映った自分を見た。額にも頬にも唇にも文字が重なり、目鼻の境すら分からない。胸元には、枢機卿が最後に告白した文があった。

――罪受け第九号ナルセアを、記録から抹消した。

その名を見ても、彼女には誰のことか分からなかった。

大聖堂を出ていったのは一人の司祭ではなく、歩く罪状書だった。