置き配写真の奥
石動翠子は、宅配をすべて置き配にしていた。
一人暮らしで帰宅が遅く、玄関前なら防犯カメラにも映る。配達完了の写真を確認してから箱を取り込むのが習慣だった。
最初に違和感を覚えたのは、洗剤を注文した日だ。
写真には箱と玄関扉が写っていたが、手前に翠子の濡れた傘があった。傘は扉の内側に置いてある。
広角レンズのせいだと思った。
次の写真は、靴箱の上から玄関を見下ろす角度だった。箱はたたきに置かれ、扉のチェーンは掛かったまま写っている。
配送会社へ問い合わせると、担当者は言った。
『配達員は通常どおり、廊下から撮影したと報告しています』
「では、この写真は?」
『アップロード元は、お客様宅のWi-Fiですね』
翠子はスマートロックの暗証番号を変え、置き配指定を解除した。
それでも翌晩、身に覚えのない荷物の通知が来た。
〈遮光シート 配達完了〉
写真は居間から撮られていた。窓には、注文していない黒いシートがすでに貼られている。
翌日は防音マット。
撮影場所は寝室だった。
次は幅広の梱包テープ。
写真の端に、ベッドで眠る翠子の足が写っていた。
翠子は警察へ相談し、室内に小型カメラを三台設置した。玄関、居間、寝室。録画を始めた夜は、電気を消さずにソファで朝を待った。
午前三時十四分、スマートフォンが震えた。
〈配達が完了しました〉
目の前の玄関は開いていない。
録画を巻き戻しても、誰も入ってこなかった。
ただ、寝室の映像では、三時十三分にクローゼットの戸が数センチ開いていた。暗闇から腕が伸び、床へ小箱を置く。続いてスマートフォンのカメラだけがのぞき、写真を撮った。
翠子は玄関へ走った。
内鍵を外そうとしたが、ドアノブに梱包テープが何重にも巻かれている。室内側から、いつの間にか固定されていた。
最新の配送写真を開いた。
撮影場所は、クローゼットの中。
ソファで画面を見ている翠子の背後に、大人一人が入るほどの段ボール箱が立っている。
送り状も読めた。
〈品名 石動翠子〉
〈重量 四十八キログラム〉
〈集荷希望 ただいま〉
背後で、テープを引き出す長い音がした。