羊飼いの午後教室
領主代行ミレナが山裾の村へ着いた日、学校の戸には大きな錠が掛かっていた。
「児童が三日続けて休んだため、今季は閉鎖です」
教師は規則書を示した。だが欠席した子どもたちは遊んでいたのではない。春の出産期、羊を見張らなければ一家の冬支度が崩れる。学校へ行けば家畜を失い、家畜を守れば授業料だけ取られる。村では、それが当然になっていた。
ミレナは規則書を閉じた。
「一年を通じた出席ではなく、百二十日の受講で修了とします。山へ上がる日は休み。代わりに夏と秋、午後の教室を開きます」
財源は羊毛税。ただし家族が冬に使う二袋までは無税で、売った分の五十分の一だけ。集めた毛の量、教師の給金、薪代は毎月、学校前の黒板へ書く。領主家の羊も例外にしないと、ミレナは自分の印を一番上に押した。
「そんな少額で校舎が直るものか」
古参の牧夫が鼻を鳴らした。しかし翌朝、彼は余った梁を一本、学校前へ置いた。帳簿に「梁一本、税ではなく寄付」と正確に記されたのを見て、別の家は窓布を持ってきた。母親たちは交代で幼い子を預かり、引退した羊飼いは星の読み方を教えると言い出した。
誰にも作業命令は出ていない。なのに三日後、錠は外れ、土間には長椅子が並んでいた。
教師は新しい受講札を見て、子どもごとに違う進み方では教えられないと弱音を吐いた。すると母親の一人が、同じ単元を三日ずつ置けば山から戻った子も追いつけると提案した。年長の子は復習役を買って出た。早く進む者を待たせるのではなく、戻ってきた者を置いていかない授業へ変わった。
初授業の午後、山から戻った少年トマが泥だらけの靴で立ち尽くした。
「遅れたから、もう入れない?」
ミレナは百二十個の空欄がある出席札を渡した。
「今日が一日目です」
少年は恐る恐る席へ座り、白墨を握った。習ったばかりの文字で、自分の名を書く。外では父親たちが、羊の首から外した小さな鐘を軒へ吊していた。
その鐘が一度鳴り、村で初めて、暮らしに合わせて学校が始まった。