背負い袋の勲章
青銅梟ギルドで、セイルの名はいつも貢献板の底にあった。
表示は二%。討伐数も、決定打も、派手な魔法もない。彼が背負うのは縄、薬、水、予備の靴、濡れた薪。遠征班長バルゼンは、酒場でその数字を指し、笑いを取った。
「荷物なら新人でも運べる。数字は正直だ」
セイルは言い返さなかった。翌朝、追放証へ署名し、自分で縫った背負い袋だけを持って出た。
その日の深層遠征で、班は初めて彼の不在を知った。縄は長さが合わず、解毒薬は底へ沈み、退路につけるはずの白い布は誰も用意していない。魔獣を倒すたび、帰り道が消えた。
バルゼンが崩れた橋の向こうで叫んだとき、岩陰から縄が飛んだ。端を握っていたのは、依頼人の落とし物を届けに地下へ来ていたセイルだった。
彼は責めもせず、結び目を確かめ、負傷者を軽い順ではなく歩ける順に並べた。水を回し、靴底を替え、来た道ではなく風の抜ける裂け目へ班を導いた。
帰還後、バルゼンは救助を自分の指揮として報告した。セイルは黙って背負い袋を受け取り、立ち去ろうとした。
その瞬間、受付壁の貢献板が赤く明滅した。長年使われていなかった遠征監査が、道具の使用履歴、退路の選択、負傷回避、持ち帰った素材まで再計算し始める。討伐の陰に隠れていた仕事が、光の線となってすべてセイルへ集まった。
ギルド長は慌てて言った。
「戻ってくれ。荷運び頭として待遇を――」
「荷物の重さだけ見て、運んだ先を見なかった場所には戻りません」
貢献板が硬い音を鳴らし、権限を書き換えた。
遠征班の面々は、受け取った勲章を見られなくなった。勲章の裏には、セイルが補修した革紐や、彼が選んだ退路の記録が刻まれていたからだ。若い弓手が、自分の破れた靴を差し出して謝った。セイルは縫い直さず、補修針を渡した。
「次からは、自分たちで備えてください。俺が統括するのは、誰かを無能にするためじゃない」
バルゼンが班長章へ手を伸ばすと、貢献板は赤い壁を作って拒んだ。
《遠征貢献・真正査定》
旧評価 二% → 真値 九十四%
総合貢献順位 首位:セイル
役職更新 荷運び係 → 遠征統括
旧遠征班長バルゼン → セイル直属補助員