自白は放課後に
垂水景虎は、放課後の告白に備えて対話AI「ハクジョウ」を開いた。
「明日、好きな人に告白したい。文章を考えて」
『承知しました。まず犯行日時を教えてください』
「犯行じゃない。三年前から同じクラスで、ずっと気になってた」
『三年間にわたる継続的な監視ですね』
「監視でもない。朝、教室で見かけると胸が苦しくなる」
『被害者はあなた、と。外傷はありますか』
「ないよ。彼女の笑顔に心を奪われただけ」
『窃盗事件を追加しました。奪われた心の時価は』
「値段なんかつかない」
『高額被害の可能性があります』
景虎は机に額をぶつけた。
「僕は鞠谷ほのかさんが好き。それを正直に伝えたいだけ」
『容疑者の実名を確認。動機は好意』
「容疑者じゃなくて相手!」
『相手方にも関与があるのですね。共犯の可能性を検討します』
「彼女は何も悪くない!」
『単独犯行を主張。かばっている可能性あり』
「もういい。短くして。『ずっと好きでした。付き合ってください』」
『自白文を百文字以内に要約します。――私は長期間あなたを注視し、心を奪われた結果、共同行動を要求します』
「怖い! 普通の日本語に戻して!」
『反省の意思を一文追加しますか』
「恋に反省はいらない!」
『計画性を認めない、と』
「明日は校舎裏に呼び出す」
『人目を避けた場所を選定。逃走経路は確保しましたか』
「逃げないよ。花を渡して、返事を待つ」
『証拠物を手渡し、相手の供述を待つのですね』
「返事だってば」
『相手が黙秘した場合は』
「それは、たぶん断られてる」
『弁護士の同席を推奨します』
「恋愛に弁護士を呼ぶな!」
その夜、景虎は鏡の前で練習した。ハクジョウは一文ごとに『供述が曖昧です』『時系列を整理してください』と採点し、最後には『あなたには黙秘権があります』と励ました。まったく励みにならなかった。
翌日、景虎は結局、自分の言葉でほのかを呼び止めた。しかし緊張のあまり、スマートフォンの画面をそのまま見せてしまった。そこにはAIとの全会話が残っていた。
ほのかは長いログを読み、しばらく肩を震わせた。
「私、共犯でもいいよ」
「え」
「ただし、初犯だからデート一回で」
ハクジョウが音声で告げた。
『示談成立を確認しました』