赤いボタンは空調です
新入社員六人が研修室へ入ると、背後で扉が自動施錠された。
天井のスピーカーが告げる。
『この部屋から全員が助かる方法は一つ。誰か一人が赤いボタンを押してください。ただし、押した者は外へ出ることになります』
壁には、いかにも不吉な赤いボタン。
営業志望の男が後ずさった。
「“外へ出る”って、会社の外じゃないよな」
経理志望の女が答える。
「人生の外かもしれない」
「研修で人生を終わらせる会社が上場できる?」
「非公開の理由が分かったわ」
一同は、誰が犠牲になるべきかではなく、誰が仕掛けたかを議論し始めた。
「ボタンに一番近い人が怪しい」
「席は自由だった」
「自由に見せかけた配置よ」
「じゃあ最初に入室した人がゲームマスター?」
「最後に入った人が扉を閉めた」
「自動扉だ! 機械まで共犯にするな」
スピーカーが繰り返す。
『室内環境が悪化しています。速やかに一名を選んでください』
経理志望が腕を組んだ。
「多数決は危険。人狼が二人いれば票を合わせられる」
営業志望が叫ぶ。
「人狼がいる前提なの?」
「この状況で村人だけだと思える?」
「会社説明会ではチームワーク重視って」
「だから裏切り者を見つけるのよ」
総務志望の男が手を挙げた。
「僕が押す」
全員が息をのむ。
「なぜ?」
「昨日、内定者懇親会の唐揚げを一人で四個食べた。償う」
「犠牲理由が小さい」
「でも誰かがやらないと」
「待って。罪悪感を利用して志願させるのがゲームマスターの狙いかも」
「唐揚げを返せば済むだろ!」
議論するほど室内は暑くなり、窓も曇った。
ついに総務志望が走り、赤いボタンを押した。
大きな音とともに壁の一部が開き、彼だけが廊下へ転がり出た。同時に空調が動き、涼しい風が室内へ流れ込む。
廊下にいた設備担当者が拍手した。
「ありがとうございます。室内側から非常換気を作動させると、押した方が点検通路へ出る仕組みです」
六人は黙った。
スピーカーが最後に告げる。
『研修課題、完了。なお、人狼はいません』
最初に排除されたのは、二酸化炭素だった。