赤い鳥居は二つあります
模試へ向かう途中、駅前で一人の老婦人に呼び止められた。
差し出されたスマートフォンには、翻訳された日本語が表示されていた。
〈赤い鳥居へ行きたいです〉
この町で赤い鳥居といえば、観光案内にも載る大きな神社だ。私は駅の反対側を指し、二番バスに乗るよう伝えた。
老婦人は礼を言いかけたが、首から下げた古い写真を見せた。若い女性が二人、小さな鳥居の前で笑っている。写真の裏には「東口、昭和五十五年」と日本語で書かれていた。
大きな神社の鳥居は西口にある。
町にはもう一つ、住宅地の奥に小さな稲荷社があった。道は入り組み、案内板もない。バスでは近くまで行けない。
時計を見ると、模試の開始まで四十分。歩いて案内すれば、たぶん遅れる。
私は英語が得意ではない。老婦人も日本語をほとんど話せない。迷った末、自分の胸を指し、次に鳥居の方向を指して、「トゥギャザー」と言った。
老婦人は何度もうなずいた。
二人で商店街を抜け、細い坂を上った。途中、彼女は写真の女性を指し、「シスター、ユーホア」と名乗った。もう一人の女性は、昨年亡くなった姉だという。若いころ二人で日本を旅し、五十年後に同じ場所で写真を撮ろうと約束していたらしい。
小さな鳥居へ着くと、彼女は写真を石段へ置いた。
私はスマートフォンを預かり、老婦人と古い写真が同じ画面に入るよう撮った。彼女は笑ったあと、鳥居の柱へ額をつけて泣いた。
帰り道、模試には間に合わなかった。先生へ事情を話すと、「道案内で遅刻とは立派だが、試験は立派さを採点しない」と追試になった。
その夜、老婦人から写真が届いた。翻訳文が添えられていた。
〈あなたは道を教えただけと思うでしょう。でも私は、姉との約束へ着きました〉
私はしばらく画面を見たあと、祖父へ電話した。
以前から「昔住んでいた町をもう一度歩きたい」と頼まれていたのに、忙しいと断り続けていた。
「今度の日曜、案内して」
祖父は笑った。
赤い鳥居は二つあった。
そして道には、行き先より大切な約束が隠れていることがある。