返却写真の右下

高級服のレンタル倉庫で、馬場園美晴は黒いワンピースの裾にある二センチの裂け目を見つめていた。

返却した会員は「最初からあった」と訴えている。受付時の写真は暗く、傷の位置だけ影になっていた。交換費用は三万八千円。昼の請求処理まで、あと二十分だった。

「規約どおり請求でいいよ。返す人は、だいたいそう言うから」

責任者は、写真を拡大もしないまま言った。隣では入社二か月の後輩が、請求確定の画面を開いている。初めて一人で検品した品だった。

美晴は写真の右下に写る白い管理札へ目を留めた。札の穴は現在と反対側にあり、撮影後に付け直されている。さらに過去四件を開くと、同じ棚を通った黒い服だけ、右裾に似た毛羽立ちがあった。

「確定を押さないで。あなたの見落としと決めるのも、まだ早いから」

後輩へそう告げ、美晴は返却口から乾燥室まで服を運んだ。搬送レールの角に、折れた金具が一本突き出している。ワンピースを通すと、裂け目と同じ高さで布が引かれた。

金具の下には、黒い糸が何本も絡んでいた。修理受付の履歴には、先週から「裾のほつれ」が二件あるのに、どちらも会員負担で閉じられている。後輩は画面を見て、「私が写真を下手に撮ったせいだけじゃなかったんですね」と息を吐いた。美晴は、だからといって確認不足が消えるわけではないが、一人へ全部載せる話でもないと伝えた。

責任者は眉を寄せた。

「でも、写真では証明できない。今回は請求して、設備はあとで直せばいい」

「証明できないから、請求しません」

美晴は会員への請求を取り消し、同じ棚を通った二十六着を出荷停止にした。後輩には、傷を見つけた場所ではなく、服の四隅を必ず撮る新しい撮影順を見せた。裂け目を縫うより先に、裂け目を作る手順を止めなければならない。

送信した事故報告には、〈担当者の不注意〉ではなく〈設備と撮影手順の不備〉と書いた。責任者がため息をつく横で、社内公募の画面が通知を出した。

〈品質改善チーム・兼務者募集〉

美晴は濡れた指先を制服で拭き、応募する、を押した。