追放された清掃員は呪いまで拭き取る

迷宮清掃員エルゼムの取り分は、いつも銅貨三枚だった。

剣士が魔物を斬り、魔術師が壁を砕き、僧侶が傷を塞ぐ。その後ろで、彼は血と泥を拭き、罠の破片を拾い、床にこびりついた粘液を落とした。

彼の技能欄には、たった一行しかない。

【清掃:対象に付着した不要物を除去する。】

「戦えない職業は、最下層には要らない」

竜王を倒した翌朝、隊長はそう告げた。報酬の宝箱を前に、エルゼムだけが転移石を渡される。昨日まで彼が磨いていた鎧で、隊長は得意げに胸を張った。

エルゼムは反論しなかった。雑巾と柄の曲がったモップを背負い、地上へ戻った。

受付係だけが、彼の空になった道具箱を見て眉を寄せた。討伐隊の帰還記録には、負傷者も装備損耗も異様なほど少ない。だが誰も、それを毎晩床と防具から残留魔力を拭っていた清掃員の働きとは結びつけなかった。

その日の夕方、迷宮の入口が封鎖された。

竜王の宝箱から黒い霧が噴き出し、討伐隊全員に絡みついたのだ。高位僧侶が何人集まっても消せない。霧は皮膚ではなく魂に貼りつき、力を使うたび内側へ食い込む呪いだという。

担架で運ばれてきた隊長は、昨日とは別人の声でエルゼムを呼んだ。

「た、助けろ。金なら払う」

「僕は戦えない清掃員ですよ」

「何でもいい、これを取ってくれ!」

エルゼムは隊長の胸にへばりつく黒い鎖を見た。僧侶には霧にしか見えないらしい。けれど清掃員の目には、泥よりしつこい“付着物”として輪郭が見えた。

「それ、必要ですか」

「必要なわけがあるか!」

確認はそれで足りた。

エルゼムがモップを一度滑らせると、黒い鎖が魂から剥がれ、濡れた糸くずのように絡みついた。桶の中で絞れば、呪いは濁った水になった。二度、三度。隊員たちの顔色が戻るたび、集まった冒険者が息をのむ。

最後に隊長を拭き終えたエルゼムは、差し出された金貨袋を受け取らず、銅貨三枚だけを拾った。

「昨日までの清掃代です。今日の分は、ギルドと契約します」

救われた僧侶が、震える手で鑑定紙を掲げた。紙には《浄化成功率・測定不能》と出ている。ギルド長は隊長ではなくエルゼムへ特級依頼章を差し出し、入口に集まった冒険者たちは一斉に道を開けた。

受付の水晶板が激しく明滅し、彼の職業欄から古い文字が剥がれ落ちた。

【職業「迷宮清掃員」が上位職「呪厄洗滅官」へ書き換えられました】