透明袋の宛名

月曜の朝、集合住宅〈桜樹館〉のごみ置き場に、分別されていない袋が十二個積まれていた。

管理人の篠守谷澪人が片づけていると、二〇三号室の久我山原嵩臣が腕を組んだ。

「また一〇五の女だろ。夜中に出してるのを見た。こういう住人は追い出したほうがいい」

名指しされた浅緋野凪沙は、何度も違うと説明していた。だが嵩臣は、自治会の連絡網に〈不法投棄常習者〉と書き、凪沙の玄関へまで注意書きを貼った。

澪人は透明袋の一つを持ち上げた。

中には宅配便の伝票があった。宛名部分だけ丁寧に切り取られている。

「ほら、証拠を消してる。悪質だ」

嵩臣が言うと、澪人は黙って管理室へ二人を呼んだ。

前週、ごみ置き場の壁が壊されたため、大家の許可で広角カメラが設置されていた。映像には午前二時、嵩臣がワゴン車から袋を何往復も運び、伝票を鋏で切る姿が残っている。

車内には、彼がネット販売で扱う輸入雑貨の箱が山積みだった。事業ごみを家庭ごみとして捨て、回収費を浮かせていたのだ。

嵩臣は椅子を蹴った。

「防犯カメラで私生活を撮るのは違法だ。むしろ大家を訴える」

同席していた管理会社の顧問弁護士が、設置告知と撮影範囲を示した。

「共用部の防犯目的で、事前通知も済んでいます。映っているのは玄関前ではなく、ごみ置き場です。訴える自由はありますが、その際は十二袋分の映像も証拠になります」

さらに凪沙の玄関へ貼られた注意書きには、嵩臣の指紋と、管理室から無断で持ち出した用紙の管理番号が残っていた。

大家は契約書を開いた。事業ごみの反復投棄、他住人への虚偽の中傷、共用設備の無断使用。すでに三度の警告を受けており、契約解除条項に該当するという。

嵩臣は凪沙へ視線を向けた。

「今までのことを水に流すなら、大家へ取り消すよう言ってくれ」

凪沙は、切り取られた伝票の裏を指した。複写紙には、嵩臣の屋号と住所が薄く残っていた。

大家が明渡期限を書面へ記入し、弁護士が受領欄へ時刻を押す。

透明袋の中から消したはずの宛名が読み上げられた瞬間、不法投棄犯にされた凪沙の疑いは消え、嵩臣の部屋だけに退去日が記された。