鎧を脱いだ唐揚げ
境界通りの食堂「継ぎ火」では、異世界の銅貨も日本円も使えた。
聖騎士グレムドが入ってきたのは、夜の見回りを終えたあとだった。銀の鎧には雨粒が残り、椅子へ座っても背筋は槍のように伸びている。
「鳥肉を。塩だけでよい」
「じゃあ、唐揚げにしましょう」
店主は鶏肉を生姜と醤油のたれから上げ、片栗粉をまぶした。鍋へ落とすと、油がぱちぱち鳴る。グレムドは眉をひそめた。
「なぜ一度引き上げる」
「休ませます」
「戦いの途中でか」
「唐揚げの途中でです」
皿には、狐色の塊が六つ。檸檬と千切りキャベツが添えられていた。指でつまむよう勧められ、グレムドはようやく籠手を外した。金属の下の手には、古い傷と新しい豆が並んでいる。
一つ噛む。薄い衣がざくりと割れ、その奥から熱い肉汁があふれた。思わず口を開け、湯気を逃がす。生姜の香りと醤油の焦げた匂いが鼻へ抜けた。
「外が硬いのに、中は柔らかい」
「二度揚げです。一度休ませると、余熱が中まで回ります」
グレムドは二つ目へ手を伸ばした。今度は檸檬を搾る。油の重さが酸味でほどけ、また腹が空く味になった。
明日は休暇だった。だが城壁の補修も、若い騎士の訓練も気になっている。休むと、自分だけが役目を捨てるようで落ち着かない。
「休ませても、冷めぬのだな」
「むしろ、ちょうどよくなります」
店主はご飯の椀を置いた。
「人も同じだとは言いません。でも、熱いまま走り続けるよりは、うまくいく日もあります」
グレムドは返事の代わりに鎧の留め金を二つ外した。肩当てを隣の椅子へ置くと、体が急に小さく見えた。
最後の一個は、急がず半分ずつ食べた。皿に残った衣の欠片まで箸で拾う。
「明日は、昼まで眠る」
「それから?」
「起きて、またこれを食べる」
空になった皿には、檸檬の種と金色の衣が一片だけ残った。グレムドはそれも指で拾い、少し照れながら食べた。
外では雨が細く続いていた。けれど鎧の内側には、揚げ油と生姜の温かな匂いが残っている。グレムドは兜を脇に抱え、いつもよりゆっくり宿へ帰った。