鐘が三度鳴る前に

「剣も振れない参謀は、分け前を減らすだけだ」

そう言ってアゼリオを追放した翌朝、〈紅蓮の牙〉は七層迷宮へ入った。

最初の広間には灰狼が六匹。団長グローデンが一太刀で三匹を倒し、残りも魔術師が焼いた。あまりに簡単だったので、誰も床へ置かれた小さな砂時計を気にしなかった。

奥の扉を開けた時、遠くで鐘が一度鳴った。

二度目で宝箱を見つけ、三度目で背後から悲鳴が上がった。倒したはずの灰狼が十二匹に増えて復活し、退路を塞いでいた。前方の扉からは鎧蜥蜴が出る。挟まれた一行は、戦利品を捨てて壁のくぼみに籠もるしかなかった。

「こんなに早く再出現するなんて聞いていない!」

聞いていた。アゼリオは探索のたび、鐘の間隔、魔物が戻る時刻、安全に引き返せる部屋を地図の余白へ記していた。彼が出発前に読み上げる「退路確認」を、皆は臆病者の長話だと笑って聞き流していただけだ。

しかも砂時計は、戦闘開始からではなく最初の魔物が倒れた瞬間に落ち始める。グローデンたちは、それすら知らなかった。

魔術師が狼を焼こうとすると、狭いくぼみの空気まで奪われた。神官は咳き込み、剣士は盾を支える腕を震わせる。救援笛を吹いても、復活の鐘と遠吠えに音が消えた。宝箱に入っていた帰還石は、魔物が再出現すると封印される仕組みだった。

グローデンは、アゼリオがいつも最後尾で鐘を数え、皆が宝へ走る前に出口を指さしていた姿を思い出した。撤退を告げるたび臆病者と罵ったが、彼は戦果ではなく、次の一歩を選べる時間を守っていたのだ。

同じ頃、アゼリオは迷宮救助組合の卓上へ、十二本の砂時計を並べていた。

「第三層は青が落ち切る前、第五層は赤が半分のうちに戻ります。救助対象が歩けない場合はこちらの退避室へ」

組合長は、彼の作った時刻表どおりに三隊を動かした。昼までに迷子の新人七人が無傷で戻り、救助隊員から一人の負傷者も出なかった。

「君は後ろで紙を書いていたんじゃない。全員が帰るための道を作っていたんだな」

アゼリオの胸に、銀色の作戦参謀章が留められた。

夕方、救助された〈紅蓮の牙〉の使い魔が窓へ落ちた。羽に巻かれた紙には、報酬三倍、正規幹部待遇、今すぐ迷宮入口へ来い、と乱れた字で並んでいる。

アゼリオは追放状の日付を写し、返信を結んだ。

「貴団との作戦契約は、昨日の追放決議をもって終了しています」